Skip to content Skip to navigation

PIOGGIA DI PREMI

FIAT『500e』に降り続く「賞の雨」
早くもヨーロッパで30のプライズを獲得

イタリア語で、賞を総舐めにすることを「pioggia di premi(ピオッジャ・ディ・プレミ)」という。直訳すると「賞の雨」である。映画のフェスティバルや音楽祭のたび、頻繁に耳にするフレーズだ。いま、自動車界でこの言葉はフィアットのEV(電気自動車)『500e』にふさわしい。なにしろイタリア本国でのデビュー以来約2年で、30ものプライズ(2022年5月現在)をヨーロッパ各国で獲得しているのだ。

さまざまな選者が、さまざまなジャンルで

プロローグは2020年10月の「レッドドット・デザインアワード」における「デザイン・コンセプト賞」。1955年に創設されたこの賞は、革新性、品質、機能性、そして持続可能性などの基準で候補作が審査される。2020年は52カ国から4100件以上の応募があった。

最新ニュースは2022年5月10日にもたらされた。フィアット・ブランドのオリヴィエ・フランソワCEOは、英国「オートカー」誌の「ベスト・シティカー」に『500e』が選ばれたことを、イタリアのフォルテ・デイ・マルミ海岸での欧州向け特別仕様車発表会の席上で明らかにした。

左から歌手マッテオ・ボチェッリ、フィアットのオリヴィエ・フランソワCEO、歌手アンドレア・ボチェッリ。2022年5月、フォルテ・デイ・マルミでの欧州向け特別仕様車発表会にて。

『500e』に与えられたプライズは、さまざまな視点、さまざまな分野の人々によるものであることが興味深い。
当然ながら、まずは『500e』のEVとしての完成度が評価されたものがある。たとえば、フランスでは2020年「オートモービル・アワーズ」の「グリーンカー」に選ばれ、英国では「ドライビング・エレクトリック」誌の「カー・オブ・ザ・イヤー&ベストエレクトリック」に選出された。

『500e』ベルギー仕様。同国では、「ル・モニター・オトモビル」誌の「ベストカー2021」に選出された。

選者も多様だ。2021年10月のイタリア「アウト・エウローパ2022」や2022年3月の英国「ベスト・シティカー・オブ・ザ・イヤー」は自動車ジャーナリストによって選ばれた。
一方、2021年2月のイタリア「クアトロルオーテ」誌の「ノヴィタ・デランノ(Novità dell’anno=今年の車)2021」や2021年11月のベルギー「ル・モニター・オトモビル」誌による「ベストカー2021」は、読者投票による結果である。後者ではEVとしてのスペックはもとより、ライバルのシティカーEVにはみられない3つのボディバリエーション(3ドア、オープン、3+1[日本導入予定なし])も評価された。

イタリアでは「アウト・エウローパ2022」を受賞。
「アウト・エウローパ2022」のトロフィー。同賞はUIGA(イタリア自動車ジャーナリスト連盟)主催による。

2022年2月のオランダ「2022年の電気自動車・ミッドサイズ部門賞」は、カンパニーカーのユーザーによる選出だ。日本では馴染みはないが、カンパニーカーとは企業から役員・従業員に通勤用などとして支給される長期リースカーだ。つまり、実用性を重視するユーザーからも『500e』は評価されたわけである。

特筆すべきは、内燃機関車と同じ俎上に載せられた上で、選ばれた賞もあることだ。
2020年11月のドイツ「アウト・モーター・ウント・シュポルト」誌による「ベストデザイン2020」、そして2021年1月の英国「What Car?」誌による「コンバーティブル・オブ・イヤー」は、いずれもガソリン/ディーゼル車も含めたすべてのモデルの中から選定された。

ユニークな賞としては、2020年12月の「キー・アワード」だ。こちらは52回を誇る広告賞で、俳優のレオナルド・ディカプリオを起用した『500e』の欧州ローンチ用CMが1位の座に輝いた。

英国では「ベスト・シティカー」「カー・オブ・ザ・イヤー&ベストエレクトリック」に加え「GQ」誌が主催する「GQカー・アワーズ」のシティカー部門賞にも選ばれた。

嬉しい雨模様、ふたたび

『500e』は、プライズにとどまらず、販売台数でも欧州で快走を続けている。
2021年11月には、早くも欧州のシティEVセグメントで24パーセントのシェアを獲得。同時に13カ国で最も多い販売台数のEVとなった。続いてイタリアでは、2021年に年間最多販売のEVに輝いている。
2022年5月も『500e』は11カ国のシティEVセグメントで首位をキープ。欧州のEV全セグメントでも2位に上り詰めた。EVに対する関心度が高い国のひとつであるドイツでも2位を記録。これは全ドイツ系のライバルEVを抑えての結果である。しかも同月、フランスではナンバーワンEVの座に着いた。そうした追い風を受けて、2022年における『500e』の世界販売は10万台に達する見通しとなっている。

『500e』はイスラエル、ブラジルそして日本でも発売された。アメリカでも2022年1月のエレクトロニクス・ショー「CES」にディスプレイされ、初めて現地の人々に公開された。そうした国や地域からも「賞の雨」がもたらされることが予想される。

ところで、世界の自動車デザイナーには、少年時代に母国でイタリア車の美しさや素晴らしさに魅せられて業界入りした人が少なくない。将来「実は500eに憧れたのがきっかけでした」と告白するクリエイターが出てくるかもしれない。

ヨーロッパで『500e』は、賞の数だけでなく、台数でも着々と実績を上げている。

文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Stellantis N.V.

OTHER