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PANDA

PANDASTIC MAGAZINE

1980年、イタリアは日常をデザインしていた。

初代Pandaが生まれた頃、イタリアでは何が起きていたのか。

1980年。
ジュネーブ・モーターショーに、一台の小さなクルマが現れた。

FIAT Panda。
ジョルジェット・ジウジアーロが手がけたそのクルマは、華やかな装飾をまとっていたわけでも、未来的な造形を競っていたわけでもない。
直線的なボディ。平面ガラス。広い室内。そして、丈夫で洗うことさえできるシンプルなインテリア。
外は小さく、中は大きく。必要なものだけを残し、日常で徹底的に使えるようにつくられていた。
けれど、Pandaを「合理的なクルマ」とだけ呼ぶと、何かが足りない。
なぜなら、そのシンプルな箱には、不思議なほどの愛嬌があるからだ。

機能的なのに、退屈じゃない。

その感覚は、当時のイタリアで起きていたデザインの動きと、どこか響き合っている。

01|ITALY, AROUND 1980

クルマだけではなかった。

Pandaがジュネーブに姿を現した、その年の暮れ。
1980年12月11日、ミラノにあるEttore Sottsassの自宅に、若いデザイナーや建築家たちが集まった。そこで交わされた「新しい表現」についての議論は、翌1981年、Memphisとして世界の前に現れる。
鮮やかな色。大胆な幾何学模様。プラスチックラミネート。家具なのか、彫刻なのか、それまでの「good design」の常識だけでは捉えきれないオブジェたち。
Memphisは、デザインがもっと遊び心を持ち、もっと語りかける存在であってもいいことを示した。
もちろん、PandaがMemphisから影響を受けたわけではない。
むしろ、見た目だけなら正反対だ。
Pandaは削ぎ落とす。
Memphisは足していく。
Pandaは合理的。
Memphisは奔放。
それでも両者には、ひとつだけ似たところがある。

日常のモノを、無個性な存在のままにしておかなかったこと。

02|OBJECTS WITH PERSONALITY

イタリアは、日用品に人格を与えてきた。

その少し前から、イタリアでは「道具」と「文化」の境界が曖昧になり始めていた。
1968年、Ettore SottsassとPerry KingがデザインしたOlivettiの赤いポータブルタイプライター「Valentine」。タイプライターという仕事道具なのに、机の上から持ち出したくなるような存在感がある。
1972年には、Richard SapperによるArtemideの「Tizio」。カウンターウェイトを使い、指先で位置を変えられる構造そのものが、美しい形になったデスクランプだ。機能を突き詰めた結果が、そのままアイコンになった。
そして1985年。AlessiからMichael Gravesの「9093 Kettle」が登場する。ステンレスのケトルの注ぎ口には、小さな鳥。お湯が沸くと、その鳥が鳴く。
タイプライター。
ランプ。
ケトル。
そしてクルマ。
用途はまったく違う。
でもイタリアのデザインは、日常の道具にひとつの問いを投げかけ続けてきた。

ちゃんと役に立ちながら、人を少し嬉しくすることはできないか。

03|PANDA WAS AN EVERYDAY OBJECT

車輪のついた、暮らしの道具。

初代Pandaにも、その考え方がある。
ジウジアーロはPandaを、ユーモアを込めて「車輪のついた冷蔵庫」と表現した。
Pandaは、眺めるためのクルマではない。
荷物を積む。
人を乗せる。
街を走る。
休日には少し遠くまで出かける。
汚れたら洗う。
暮らしの中で使い倒す。
だからこそ、そこには「クルマらしく見せるため」のものがほとんどない。

暮らしに必要な機能を考えたら、結果としてこの形になった。

前号でジウジアーロが語った「機能性と美学は、別々ではない。」という思想も、ここにつながっている。

04|NOT NOSTALGIA

なぜ、いま新しく見えるのか。

では、なぜ45年以上前のPandaや、同じ時代のイタリアンデザインが、いままた新鮮に見えるのだろう。
それは、80年代に戻りたいからではない。
むしろ逆だ。
技術が進み、多くのものが滑らかに、速く、便利になったいまだからこそ、何のためにつくられたのかが目で見てわかるモノに惹かれる。
押せば動く。
回せば変わる。
触れば素材がわかる。
そこには、つくった人の判断が見える。
少し不完全で、少し人間くさい。
でも、その不完全さこそが、いまの私たちには新しく感じられる。

だからこれは、Retroではない。
Relevanceだ。

過去のスタイルをもう一度流行らせることではなく、過去にあった考え方を、いまの感覚で発見し直すこと。

05|SAME QUESTION. NEW ANSWER.

Pandaが受け継いできたもの。

Pandaが時代を超えて残してきたものは、四角いボディそのものではない。
日常をよく観察すること。
必要なものを残すこと。
使う人を中心に考えること。
そして、そこにほんの少しの遊び心を忘れないこと。
1980年のPandaは、その時代の技術と暮らしに対して、ひとつの答えを出した。
では、2026年ならどうだろう。
暮らしも、街も、テクノロジーも変わった。
だから、答えの形も変わる。
でも、問いまで変える必要はない。

どうすれば、毎日は少し自由に、少し楽しくなるだろう。

Pandaが受け継いできたのは、形ではない。
その問いなのかもしれない。
そして、その問いへの新しい答えが、もうすぐ日本にやってくる。