フィアットらしい懐の深さ
全体的には、突出して尖ったようなところがなく、バランスに優れた優等生的なバッテリーEVといった印象。あまりにまとまりがいいので、ともすれば走りは無個性みたいに感じてしまう人もいるかもしれません。が、すべての人にとって平等にメリットを最大限味わってもらおうというのがファミリーカーとしての正しい在り方だし、それを実現するのがユーザーへのフィアットらしい愛情の持ち方であり優しさ……と、原稿はそうまとめることになるんだろうな、なんて思っていました。なぜなら、それが真実だから。
215/55R18サイズというSUVらしい大径タイヤを装着。
けれど、驚きました。最後にちょっとした出来心でタイトなワインディングロードへ滑り込み、元気よく走ってみたら、『600e』はスポーツカー顔負けのコーナリングパフォーマンスで、僕をたっぷり魅了してくれたのです。ブレーキングで慣性の法則によりノーズが沈む、前タイヤに重量が残った状態でステアリングを切り込む、車体全体がグッと腰を低くしたみたいな感覚を伴ってスピーディに向きを変える、コーナーの出口にノーズが向いてアクセルペダルをグッと踏み込む、モーターの瞬発力と強力なトルクで強力にコーナーを脱出していく。その一連の動きの楽しいこと、気持ちいいこと。
先に述べたようにステアリングはスロー気味、つまり切り込みすぎてしまうミスを誘発しないセッティングだから、大抵のドライバーがその愉しさを満喫できるし、その後のクルマのロール──つまり遠心力による車体の傾き具合──も自然、そしてそこから先の「この瞬間がフィアットだよね!」とでもいいたくなるような特有の粘り腰を感じさせながらグイッと曲がっていく懐の深さが安心感を与えてくれます。このクルマをそういう領域まで持っていって走るような人はそれほど多くないかとも思うのですが、優等生的な貌のひとつ奥に、実にフィアットらしいスポーティな性格が隠されてたのですね。ますます気に入りました。
航続距離はWLTCモードで493km。充電アダプターなしでCHAdeMO充電に対応してます。充分に日常的な使い方ができるといえるレベルです。
充電口は急速充電用と普通充電用を搭載。
それに、リアバンパーの下に爪先を入れるとリアゲートが開くハンズフリーパワーリフトゲートが標準で備わったり、開いたところのラゲッジスペースは通常で360リッター、後席を倒せば1,231リッターの広さがあったり、シートが見た目以上に座り心地が良くて疲れも少なかったり、車内は大人4人ならゆったり過ごせる広さがあったり、シフトセレクターレバーがないためにその部分に深い小物入れが設けてあったり、それにもちろんADAS(先進運転支援装備)も充実していたり、と実用性も使い勝手も不満はありません。
ラゲッジルームは5名乗車時で360リッター、2名乗車時では最大1,231リッターの大容量を確保しています。
『600e』は『500e』のお姉さん的な存在と言いましたが、そういうもろもろを考えると、しっかり者のお姉さん、と言い直した方がいいかもしれませんね。
だいぶ進んできたという実感はありますが、バッテリーEVはまだまだ乗り手を──というより乗り手の生活環境やクルマの使い方を──選んでしまうという側面があることは否定できません。また新しい『600』には1.2リッター3気筒エンジン+モーターのマイルドハイブリッド仕様もあって、そちらは遅れて来年の春に上陸する予定と発表されています。が、もしあなたが生活環境的にバッテリーEVでも問題ないのであれば、僕は積極的にこの『600e』を選ぶことをオススメしたいところです。
まずはショールームで洒落者っぷりに触れて、内燃エンジンのクルマからの乗り換えでもまったく不安がないシンプルで穏やかな性格なのにバッテリーEVのメリットは目一杯楽しめるこのクルマの性格のよさを、テストドライブで味わってみてください。
文 嶋田智之
『600e』の詳細はこちら
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