「早く行く」より「楽しく行く」
ここまでのお話で、ルボワンヌさんが子どもの頃からクルマが好きで、現在イタリアでデザインだけでなく、文化やカルチャー、そして人との触れ合いを楽しまれていることがわかりました。次にフィアットデザインについて質問してみました。
先ほどカーデザインが花開いたのは70-80年代のイタリアと話されていましたが、これまでのフィアットやアバルトの歴史のなかで好きなモデルを教えていただけますか?
「フィアットに関して言えば、やはり手の届く価格でありながら実用性に優れているというところで、初代『Panda』を挙げたいと思います。初代『Panda』が登場した1980年前後という時代は、イタリアがそれまでに培ってきたインダストリアルデザインが、カーデザインに生かされ始めた大きな転換期であったと感じています。また、いかに美しく仕上げるかというのもイタリアならではのデザイン要素だと思います。70年代はそうした美の追求が加速した時代であり、マルチェロ・ガンディーニ(※ランボルギーニ・カウンタックやアルファ ロメオ モントリオールなどを手掛けた)の作品に象徴されるように、近未来的でありながらも衝撃的すぎない、美しいデザインが生まれたと思います」
「未来的なものを作ろうとすると往々にして破壊的なものになりがちで、それに拒否反応を示す人が出てきますが、そうではなく、未来的でありながら受け入れられるデザインがこの時代に生み出されたと思います。これはイタリア全般に言えるかもしれませんが、私としてはそうした流れを汲み入れながら、手の届きやすいクルマの代表作として初代『Panda』を挙げたいと思います」

初代Panda。イタリアのデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが手掛けた。
「他にもたくさんの作品がありますが、他のメーカーでは思いつかないような答えを導き出せるのがフィアットの強みだと思っています。そしてそうした驚きを提供したときに、受け入れてもらえるのもフィアットならではの強みだという風に感じています」
フィアットのデザインは、人の顔のように表情があると感じます。クルマをデザインするときに、デザイナーは顔や表情を意識して手掛けているのでしょうか。
「もちろんです。クルマはアニマル、生き物ですし、デザイナーの仕事というのはそのクルマに感情や性格を吹き込むことだと思っています。さらにいえば、私たちは顔だけではなくて、その生き物はどのような性格で、どんなアティテュード(立ち居振る舞い)かというところも意識しています。ただ、そうは言ってもクルマは最終的には機械ですので、機械と生き物の融合に力を注いでいます。クルマの顔を見たときに、デザインについて勉強したことがない人でもアグレッシブであるとか、エレガントに見えるという風に何かを感じてもらえると思います。デザイナーはクルマをデザインするときに少し笑っているような顔にしようとか、いたずらっ子のような茶目っ気がある顔にしてみようとか、遊び心を持って取り組んでいます。ですから私達はヘッドライトのことをヘッドライトとは呼ばず、“目”と呼んでいます。そのように接するとそのクルマには命が吹き込まれ、表情が生まれるのです。クルマは生きている機械であり、生物のように反応します。ですので、もちろん顔はありますし、そのような意図を持ってデザインしています」

2024年9月に国内デビューを果たした『600e』。 “イタズラっ子のようなかわいさ”が与えられた。
最近では街中に相手を威嚇するような怖い顔のクルマが増えているように感じますが、フィアットはそうではありません。それはやさしい顔を目指しているからでしょうか?
「もちろんです。フィアットのクルマには、強そうとか怖そうとか前衛的過ぎる性格を持たせたくないですし、見た人に幸福感を感じてもらえるような顔にしたいと考えています。フィアットブランドのアセット(資産)に、“前向きである”という特徴があると思います。未来に向かって恐れずに前進してほしい。ドルチェヴィータ・デザインにはそのような意味が込められています。デザイナーはそれを体現するように表情を作り込んでいるのです」

「もうひとつ。おそらく多くの自動車メーカーにはスピードという概念が強く出ていると思います。しかしドルチェヴィータ・デザインでは、スピードや目的地に到達する早さを追求するのではなく、“楽しみながらゆっくり行きましょう”という価値観を体現しています。その時々の時間を楽しむ。それから運転することを楽しんでもらいたい。余裕のない気持ちで速く移動するよりは、楽しんでもらいたいというブランド理念が表現されているんです」
>>>次ページ クルマとドライバーは鏡のように映し合う

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