この春、フィアットを代表するコンパクトカー『500(チンクエチェント)』のEVモデル『500e(チンクエチェントイー)』が日本で発表されました。新たなボディを採用し、わずかにサイズアップしたものの、かわいらしさが特徴的な外観イメージは『500』そのまま。一方でインテリアデザインは大きく様変わりしました。
今回は、昨年のインテリア特集で『500』の内装についてうかがった、デザインスタジオ『THE TRIANGLE.JP』の大田昌司(おおたまさし)さんを再びお招きし、インテリアデザイナーの視点から『500e』の魅力を語っていただきました。
–今回大田さんには、3種のモデルが用意されている『500e(チンクエチェントイー)』の中から、電動でソフトトップが開閉する『500e OPEN(チンクエチェントイー オープン)』を見ていただきました。屋根を全開にし、解放感に満ちた運転席に座った大田さんは、インテリアが一新されても『500(チンクエチェント)』らしさにこだわったデザインの要点を発見したと言います。
大田さん:『500e』のインテリアデザインは、既存の『500』と異なるシンプルなものになっていますね。工業製品におけるシンプルさは機能美と形状美の追求ですので、現代的な家具設計で有名なイタリアのデザイナー、ピエロ・リッソーニのポリシーである“本質的でシンプル”が、この『500e』にも当てはまるのではないでしょうか。
シンプル路線への切り替えでは、ハンドルのスポークが『500』の3本から2本に変わった点が興味深いです。2本のスポークは1957年に登場した『Nuova 500』で採用されていたようですね。当時は空調もカーナビも備わっていませんでしたから、ダッシュボードは極めてシンプルだったと思います。『500e』がとことんディテールを減らしていったなら、スポークの数も減らすことがオマージュになる。『Nuova 500』をよく知っている人にすれば、これほど腑に落ちる試みはないかもしれません。
空調装置類の一体感も、違和感をなくすための細やかな仕事ぶりとして注目しました。イタリア発の『ボッテガ・ヴェネタ』が得意としたイントレチャータ(短冊切りのレザーを編み込む技法)を取り入れたインストルメントパネルの下部にエアコンの吹き出し口が備えられています。必要個所に吹き出し口を設置するとなると、周辺の各パーツが独立してしまい、構成要素が多くなります。ですが、吹き出し口がない場所も意匠を合わせて一つの曲線意匠とし、パーツを少なく見せることによりシンプルさを成り立たせています。インテリア空間でも、壁の収納できる部分とできない部分の違和感を消して一つの大きな壁に見せたいときには、目地や素材を用いてシンプルさを成立させる手法を用います。
さらに、吹き出し口の下に並んだ2列のスイッチ群も、直線基調を際立たせるデザインに貢献しています。『500』で多用されたダイヤルスイッチをプッシュボタンに改めたのも、シンプルな室内の統一に不可欠だったのではないでしょうか。
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