フィアットの特徴である“かわいいデザイン”はどのように作られるのか? そんな疑問をデザイナーさんに直接聞くことができました。教えてくれたのは、『600e』の発表会のため来日したフィアットのチーフデザイナーのフランソワ・ルボワンヌさん。『600e』の生みの親に、フィアットデザインが大切にしているものについて尋ねました。 その時々を大事にするのがイタリア流 カーデザインというのは奥が深く、どのように見えるかというのは主観であり、その印象は見る人によって異なるもの。そうしたなか、誰もがうなずく“かわいいデザイン”というのはどのように作られ、デザイナーはどのような想いでイメージをカタチにしているのか。ルボワンヌさんは言葉を選びながら、フィアットのデザイン哲学について話してくれました。 チーフデザイナーのフランソワ・ルボワンヌさん。2021年よりステランティスのデザインセンターに所属。 ルボワンヌさんはいつ頃からカーデザイナーを志したのですか? 「僕にとってカーデザイナーは子どもの頃からの夢でした。かなり早い段階でその仕事をしたいという気持ちが固まっていたので、早くにデザインについて学び始めました。学生時代にまず美術を専攻し、パリでインダストリアルデザインを学び、その後ロンドンの大学でカーデザインについて学びました。私がカーデザイナーとして働き始めたのは20歳の頃でした」 カーデザインを学ぶためにロンドンを選んだのは何か理由があったのですか? 「理由は二つあります。ひとつは90年代当時、ヨーロッパでカーデザインについて学べる学校は限られていたのです。そのうちのひとつが私が学んだロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートです。もちろん出身地のフランスでも学ぶこともできたんですけれど、やはりこの機会に海外に出たい。異文化に触れたいという思いがあり、ロンドンに行くということは自分にとって世界に出るということでもありました。実際にロイヤル・カレッジ・オブ・アートには世界中から多くの人々が集まっていましたし、そこで知り合った多くの友人とは今でも交流が続いています」 カーデザイナーとしてステランティスグループで働いて良かったと思うところを教えてください。 「ステランティスグループに魅力を感じた理由は、ひとつは様々な文化的な要素が入り混じっているところです。イタリア、フランス、アメリカといった三つの文化が交差し、それぞれデザインに対するアプローチは異なりますので、それらに触れられるのが大きな魅力です。もうひとつ、イタリアに来られたことも個人的には大きいですね。家族とともに移り住んだのですが、イタリアでの生活にはとても満足しています。イタリアというのは偉大な国ですし、70年代から80年代にカーデザインが花開いた国でもあります。カーデザインのマエストロが育まれたその国で働き、しかもその中心的な街であるトリノで働けるということは、デザインの歴史を学び、そして今後10年間通用するデザインを生み出すという意味においても非常に価値あることだと思います。さらにステランティスは世界中にネットワークがありますので、今日こうして日本を訪れ、皆さまとお会いできたりするのも素晴らしい魅力だと思っています」 日常生活ではイタリアの生活のどのようなところに魅力を感じますか? 「ドルチェヴィータです(笑)。イタリアはやはり、多様な魅力が結集している場所だと思います。歴史的背景、カルチャー、アート、ビューティ。そして人ですね。イタリアの方たちは、時間の楽しみ方が他の国の人たちとはやや異なっていると感じます。仕事をこなしながらもそれだけに傾倒することなく、大切なものを見失わず、それをシェアすることが好きな国民性だと感じています。人生の一つひとつの瞬間を大切にし、いい具合に妥協点を見出すのはイタリア人ならではで、私はそうしたところに魅力を感じています」 >>>次ページ 「早く行く」より「楽しく行く」
フィアットファミリーに新たに仲間入りする新型車『600e(セイチェントイー)』が9月11日に発表されました。『500e』のお姉さんにあたり、フィアットの電気自動車第二弾となる『600e』はどんなクルマなのか。発表会の模様を報告しながら詳しく見ていきます。 愛らしいデザインと5ドアの機能性を両立 『600e』のプレス発表会では、はじめにStellantisジャパンの打越晋社長が登壇。冒頭に日本で展開する7ブランドのすべてが電動化を実現していることをアピールすると共に、「今後バッテリーEVを拡充しつつ、プラグインハイブリッドやマイルドハイブリッド、ガソリンエンジンに至るまで、すべてのパワートレインを展開し、お客さまに選択いただける体制を強化します」と、多様なパワートレインを取り揃えていく方針を述べました。 Stellantisジャパン代表取締役社長、打越晋氏。 そしてこの日の主役である『600e』については「チンクエチェントの最大の魅力である“かわいい”を引き継ぎながら、ゆったりとした居住性、そしてご家族にとっても使いやすいラゲッジルームなど、たくさんの機能やワクワクを持つクルマです」と、デザインと機能、そしてユーティリティを両立したクルマである点をアピールしました。 フロントシートにはボディカラーにかかわらずターコイズブルーのステッチが施され、上質感が高められています。 リアシートには大人でも十分に座れるスペースを確保。 『600e』のボディサイズは、全長4200mm×全幅1780mm×全高1595mm。『500e』に比べると、570mm長く、95mm幅広く、65mm高いフォルムを持ちます。また『500e』が3ドアであるのに対し、『600e』は5ドアを採用しており、後席への乗り降りがしやすいうえ、ラゲッジルームには360リッターの容量を確保するなど、たくさんの荷物を積んだお出掛けや、4〜5名での移動も余裕でこなせる実用性の高さが語られました。 ラゲッジルームには、360リッターの容量を確保。さらにハンズフリーパワーリフトゲートを標準装備。 続いてプロダクト担当の児玉英之氏は、『600e』を「『500e』から見たお姉さん、ビッグシスター」と表現。『500e』との違いについては360度パーキングセンサーやブラインドスポットモニターといった装備に加え、新たにレーンポジションアシスト(車線内走行保持アシスト機能)といった新機能が備わることや、キーを保持した状態で足をリアバンパー下に動かすと自動でリアゲートが開く「パワーリフトゲート」、ドライバーの腰をマッサージする「アクティブランバーサポート機能」、キーを保持した状態で車両に近づいたり遠ざかったりするだけで解錠・施錠ができる「プロキシミティ機能付きのキーレスエントリー」など、便利機能が充実していることに触れました。 Stellantisジャパン プロダクトスペシャリスト、児玉英之氏。 さらに『600e』が『500』のガソリン車を生産してきたポーランドのティヒ工場で作られ、プラットフォームはCMPを採用することが明らかにされました。なお、54kWhへと容量アップしたバッテリーの搭載やバッテリーマネージメントシステムの効率化により、航続距離は493kmの余裕のある値を実現しているとのことです。 >>>次ページ 周りを明るくするドルチェヴィータ・デザイン