ONE OFF MODEL500e Giorgio Armani

イタリアンファッションの帝王による
“走るオートクチュール”

ふたたびクリエイターの感性を刺激した

フィアット歴代モデルの多くは、そのユニークなデザインやキャラクターから、さまざまなクリエイターたちの感性を刺激し、スペシャルモデルを誕生させてきた。
それは、最新のフルEV『500e』でも同様である。2020年3月、フィアットはイタリアン・デザインを代表する3つのブランドと創り上げた3台のワンオフ、つまり一品製作車をミラノで公開した。そのうちの1台が『500e ジョルジオ・アルマーニ』である。

アルマーニの解説によれば、スタイル、創造性そして職人の技を讃えつつ、都市に相応しいクルマを模索したという。「自然」「再利用」そして「再生」といったサステナビリティ(持続可能性)の原則に基づきながら、紛うことなきアルマーニの感性が反映されている。

アルマーニは「サステイナビリティ」のワードが浸透する遥か前である1996年、早くもミラノの科学技術博物館でリサイクル素材のジーンズを発表している。近年では2020年にカプセルコレクション「エンポリオ・アルマーニ・リサイクルド」をリリースしている。つまり、ファッション界で環境へ高い関心を示してきたブランドのひとつである。

『500e ジョルジオ・アルマーニ』は「アースアライアンス」の支援オークションに出品される予定だ。あの俳優レオナルド・ディカプリオが設立した、気候変動と生物多様性の喪失に取り組んでいる団体である。

フロントフードを含むボディの上端には、レーザーカッティングで加工が施されている。
「グレイ・グリーン・アルマーニ」は、デザイナーが手がけてきた歴代作品との共通性を感じさせる。
フロントのアンダー部のグリルにも、シェブロン柄を反復。『500』のバッジ上にもサインが施されている。

未来感と安堵感のアンサンブル

実車は『 500e カブリオ』をベースにしている。リアウインドー下端にはめ込まれたブロンズのプレートには、イタリアン・ファッションの帝王である彼のサインが刻まれている。それを含め、少なくとも7つの特別な仕様を、このクルマには発見できる。

ボディのキャラクターラインから上には、レーザーカッティング&エッチングによる無数のシェブロン(山型)パターンが刻まれている。テキスタイルでいうところのヘリンボーン柄である。その視覚的立体感は、見る者に限りなくシルクのような印象を与える。しかも、フロントバンパー下のグリルにも、シェブロンは反復されている。

キャンバスルーフ同様、ホイールにもGAのロゴが。
通常は『500』のロゴが入るリアサイドウィンドウ下にも、クリエイターのサインが嵌め込まれている。
リアウインドー下端のFIATロゴは、上品なゴールドで仕上げられている。ナンバープレート灯用の隆起によって、まさに布のように見える。

マット仕上げのボディカラー「グレイ・グリーン・アルマーニ」は、これまでも彼がアイウェアなどで好んできた色である。ウインドーにはアンバー(褐色)のスモークがかけられている。当然のことながら、ソフトトップのファブリックもオリジナルのものが選択され、ルーフトップにはイニシャルである「GA」ロゴが記され、大胆なことにホイールにもそれが繰り返されている。

インテリアには「アルマーニ・カーザ」と同じ未来感と安堵感が溢れる。
ダッシュボード上端の縁は、象嵌細工のクロームが走る。

心地よいエキゾティズム

インテリアを見てみよう。アルミニウムの象嵌細工で縁取られたインストルメントパネルには、再生木材を使用。木の風合いが最大限に生きるオープンポアー仕上げといわれる薄い塗膜が施されている。その適度な未来感と、リラックスできるムードの絶妙なバランスから、ファニチャー・ブランド「アルマーニ・カーザ」のコレクションを思い出すのは、筆者だけではあるまい。

グレージュ(グレイ+ベージュ)色のシートは、ポルトローナ・フラウ製のレザーだ。フル・グレイン(皮革のきめを維持している高級かつ耐久性に富んだ部分)を使用している。参考までに、同社は長年イタリアを代表するレザーのブランドであるが、北部トレンティーノのファクトリーでは太陽光発電の余剰電力を民間に供給するなど、持続可能性のリーディングカンパニーでもある。

エクステリアのシェブロン柄は、シートバックと座面にもさりげなく反復されている。
シート地は、ポルトローナ・フラウのレザーが採用されている。

ふと思い出したのは、かつて筆者がジョルジオ・アルマーニ本人にインタビューしたときのことだ。「あなたの作品には、オリエンタリズムを感じるが」と質問すると、巨匠は「私の頭の一角は常にオリエンタルなものにスペースを割いてあり、それに向けて開いているのだ」と教えてくれた。
このワンオフに接した人が惹かれるのは、イタリアニティ(イタリア性)とともに、心地よいエキゾティズムによるものかもしれない。

初公開の舞台となった2020年3月のミラノ・トリエンナーレ美術館にて。アンバーのスモークガラスがわかる。

文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Stellantis

OTHER