ONE OFF MODELB.500e MAI TROPPO by BVLGARI

ゴールドのパウダーに全身を包まれて
FIAT B.500eブルガリ・マイ・トロッポ

フィアットとブルガリ
ドルチェ・ヴィータの2ブランドによる『500e』

フィアットが『500e』のローンチを機会に、イタリアの偉大な3ブランドと共作したワンオフ(一品製作)プロジェクト。なかでも、よりビビッドな印象を与えるのが、高級ジュエリーブランド「ブルガリ」とのコラボレーションである。

ブルガリは、フィアットとの共通性を以下のように解説している。
「500とブルガリは共にイタリア、国民、文化を象徴するアイコンでありながら、各自の領域で活躍してきました。1950年代以降、ファッション、デザイン、アート、日常生活の美を取り入れたライフスタイル、比類なきセンス、イマジネーション、そして独特の“アール・ドゥ・ヴィーヴル(生き方の技)”であるドルチェ・ヴィータ(甘い生活)の代名詞の役割を果たしてきました。簡潔に述べるなら、イタリアン・グラマーです。」

フロントのバッジの上にはブルガリのロゴが輝く。
リアのFIATロゴも、ゴールド加工が施されている。

女神の夢

彼らが創り上げた『500e』の正式名称は『B.500e byブルガリ・マイ・トロッポ』という。「mai troppo」とは英語では「Never too much」、日本語では「過ぎたるは及ばざるが如し」という意味である。ブルガリが2020年から展開しているキャッチフレーズと同一である「mai troppo」を、この『500e』でどのように実現しているのか紹介していこう。

フロントの「500」およびリアの「FIAT」のバッジはゴールドで加工され、カブリオのファブリックには、本物のシルクが用いられている。

イメージ写真から。ブルガリ製ジュエリーのプロダクション・プロセスで生まれた金粉を塗料に混合している。

ホイールのセンターキャップには「500」の文字を取り巻くように、BVLGARIのレンダリングが刻まれている。いうまでもなくブルガリのペンダントやリング、そしてリストウォッチでお馴染みの古代ローマのコインからインスピレーションを得た意匠である。

センターキャップを縁取るのは、古代ローマの硬貨からインスパイアされたブルガリのロゴ。

ブルガリを象徴的するカラーであるインペリアル・サフランのメタリックペイントは、永遠の都ローマに沈む夕陽をイメージしたものである。塗料には、イタリア北部アレッサンドリア県ヴァレンツァにあるブルガリ・ファクトリーのジュエリー製造過程で発生したゴールドの粉塵を使用している。「ジョルジョ・アルマーニ」と「カルテル」の『500e』のワンオフモデルのコンセプトでもある“リサイクルマテリアル”を、ブルガリもしっかりと提示している。

2020年、ミラノでのお披露目にて。フロントグリルのパターンもオリジナルである。
サイドウインドーの下端にははめ込まれた「B.」のラインストーン。

室内に目を向けてみよう。ステアリングのホーンパッドには、ブルガリの金細工職人によって上質なジュエリーが「500」ロゴに沿って埋め込まれている。これは取り外し可能だ。
また『B.500e byブルガリ・マイ・トロッポ』は、インテリアでもエコ・サステイナブルが実践されている。カラフルなインストルメントパネルは、過去のスカーフ・コレクションを用いたものだ。シート素材もゼロインパクト・レザーである。その扇型ステッチは、カラカラ浴場の大理石にインスパイアされたジュエリー「ディーヴァドリーム(女神の夢)」のパターンを再現したものである。

『B.500e byブルガリ・マイ・トロッポ』のインテリア。
インストルメントパネルのデザインは、シート座面およびバックレストのアクセントにもなっている。

惹きつけられる理由

ここまでFIATによる「ジョルジョ・アルマーニ」「カルテル」そして「ブルガリ」との華麗かつ個性的なプロジェクトを見てきた。各作品には、参加ブランドによる唯一無二の強い個性が反映されているのはいうまでもない。だが同時に、ヨーロッパの美術や音楽との共通性が筆者には興味深く映る。
まずは、絵画だ。ヨーロッパの神話画や宗教画は、登場人物が持つ持物(じぶつ)、つまりアトリビュートを守りながら描かれている。たとえば、海神ネプチューンは必ず三叉の矛を持っている必要がある。
音楽の世界では、たとえばソナタの場合、序奏、提示部、展開部、再現部そしてコーダ(結尾部)という定型を守ったうえで、作曲家は自身の作品を創造してきた。
その音楽を演奏者の側から語れば、コンチェルト(協奏曲)におけるCadenza(カデンツァ)を取り上げたい。カデンツァとは、独奏楽器の奏者がオーケストラの伴奏を伴わずプレイする部分である。現在では、伝統的な作曲家によるほぼ定型のものが用いられるが、かつては演奏者が自由にかつ即興で演奏する部分だった。今日のジャズのアドリブに近いものだったといえよう。
何を言いたいのかといえば、ヨーロッパで芸術家は一定のフォーマットが存在したからこそ、自身の腕とセンスを見せることに闘志を燃やしてきたのである。
今回の3作の『500e』に当てはめれば、歴代『500』からさまざまなデザイン・ランゲージやキャラクターを継承した『500e』は、アトリビュートでありソナタ形式である。それらをリスペクトしたうえで、カデンツァのごとく各々のクリエイターが自身の解釈を繰り広げたのだ。今回のプロジェクトの成果に多くの人々が惹きつけられるのは、イタリアに世紀を超えて息づく、そうした伝統が息づいているからに他ならない。

職人によってホーンパッドに埋め込まれたジュエリーは取り外しが可能。『FIAT B.500e byブルガリ・マイ・トロッポ』はオークションを通じて販売され、収益は俳優レオナルド・ディ・カプリオの環境保護団体に寄付される。

文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA
写真 Stellantis、BVLGARI

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