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CULTURE

チュニジアキリムと暮らす~褐色の大地が産む色彩とデザインの奇跡

キリムとの出会いは、自由が丘の路地裏。人気の雑貨店やカフェが並ぶ一角に、数日限定で開かれたマルシェのようなスペース。目を引く色使いと、フォークロアな素朴さを持ち合わせた布が床に積み上げられたり、壁に掛けられ、道往く人々が足を留めていた。聞けばチュニジア産だという。 キリムとは、イラン、トルコ、アフガニスタン、モロッコ、そして地中海にかけての遊牧民が作るパイルのない平織の総称。多くは羊毛で、地域によっては山羊やラクダなども使われ、絵柄や色合いなどもかなり違いがある。敷物として使われることが多いが、現地ではテントのように日よけになることも…。     最近では、人気雑誌でも取り上げられ、ソファに掛けたり、タペストリーとして楽しむ人も増えているとか。そんなブームの中で、チュニジアキリムは、特徴ある色彩や素朴な風合いが評判になっている。 その路地裏の店で、キリムを熱っぽく語っていたのが佐藤恵理さん。現地に赴き、買い付け、販売して4年になる。長い時には、作り手の家で二ヶ月間生活を共にするという。 「チュニジア旅行中にお世話になった運転手さんが、最終日の別れ際にキリムをくれたのがキッカケです。家族が作ったものだというそのキリムの色彩の見事さに目を奪われ、どうしたらこんな柄ができるんだろうとすっかり惚れこんでしまいました。トルコやイランのキリムと違って、当時、チュニジア産はほとんど知られていませんでしたし、ぜひ日本に紹介したいと思ったんです。まずは、織っているところを見たくて、その運転手さんのお宅にホームステイし、作業を見せてもらうところから始まりました。」 佐藤さんにとって、チュニジアキリムの魅力は、代々女性たちが伝えてきた手作業の温かさだという。 「他の地域では、機械化はもちろん、きちんとしたビジネスモデルも存在しているんですが、チュニジアではまだ手作業しか見たことがありません。あくまでも生活用品だからで、産業として捉えられていないんでしょうね。もともとは主婦が、家事や育児、農作業の合間に家族のためコツコツとやってきたものなので、作業時間も一定でなく、工業化、産業化という規模に至っていないのでしょうね。」     チュニジアキリムの特徴は、その色彩とデザインだ。日本では伝統的な文様も人気だが、デジタルな感覚さえ漂う幾何学模様や、ティーンエイジャー的でプラスティッキーなポップな色使いは、ヨーロッパの最先端ファッションにも通じるモダンさを漂わせている。 この地では、南から来る文化はアフリカそのものであり、北からはヨーロッパ文化が、東からはアジアが流れ込み、そこにイスラムの影響が加わってきた。そういったものが混じりあって、キリムに反映されてきた。 「昔は草木染めだけだったので、中間色やシックな色も多かったのですが、近代になり、いろいろな色が使えるようになると、こういう色使いが急に増えたんですよ。それは、コンピュータで計算しているわけではなく、すべて頭の中で創り出されます。あるとすれば、親から伝えられた技術だけ。デザインは、頭に思い浮かんだまま、それを織り込んでいくわけです」 そこにはチュニジアの自然も大きく影響しているようだ。     「大地は見渡すかぎり褐色で、外の風景に色がないのに、なぜこの発想が出てくるのか不思議です。でも、太陽の光が強烈なので、色が飛んじゃう。これくらいの強烈な色使いでないと、印象に残らないのかもしれませんね」 その魅力は近年、ヨーロッパの人々も虜にした。フィアットの故郷、イタリアからも、フェリーで地中海を渡り、4WDでチュニジアを一周してキリムを買い集める姿が目につくという。 欧州、特にラテン系の国の人々は歴史的に色に対する感度が高い。色とりどりのカラーリングやコーディネイトはFIATの伝統だが、やはり彩りのある暮らしは豊かで楽しいということをよく知っているのかもしれない。     チュニジアキリムのファンは多くが30~40代の女性だという。超絶技巧や圧倒的な手間の産物ではないので、値段が手ごろで気軽に手を出せるのも魅力だ。     「展示会で、こういうのを捜していたんです…って喜んでくださることも多くて。最初は、玄関マットサイズの60㎝×90㎝が買いやすいのではないでしょうか。2万円前後ですね。チュニジアでは、100万とか高額な物はまずありません。手軽に入手して。チュニジアの風土や民族性が産んだデザインアイテムとして取り入れ、生活に落とし込んでもらえたら嬉しいですね。メタリックなものにも不思議と合うんですよ。また、キャンプとかBBQ、お花見など、アウトドアに持ち出すのもお薦めです。     チュニジアの女性たちが家族のために作ってきたものですから、そこに込められた家族への愛情や、精一杯のアイデンティティ、創造力、芸術性を味わい、楽しんでほしいですね。」 購入する際のポイントは、自分の感覚で気に入ったデザインやカラーを選ぶのが一番とのこと。     「素朴さとカジュアルな感じ、気軽にじゃんじゃん使えるというのが、キリムの良さであり楽しみ方なのかもしれません。日々の暮らしのテキスタイルなので、端の部分の始末がきちんとできていないこともあるのでチェックするといいですね。自宅でお洗濯も可能なのでお手入れも簡単。ウール用の洗剤を溶いて浸し、軽く押したら、充分にすすいで、そのまま干します。無理に絞ったり、脱水機は禁物です。」     存在感がありながらも、日常にすっと馴染んで、時の流れさえ豊かな彩りを加えてくれる。そんなちょっとした歓びを運んでくるパートナーともいえるキリム。 ちょっとFIATにも似ていませんか? […]