文=髙橋 勝也 取材協力=叶 精二
アニメーター、そして作画監督として、長きにわたり日本のアニメーション界をけん引している大塚康生さん。
数え切れないほど手がけた作品の中でも、特に有名な作品のひとつが「ルパン三世」。
大塚さんが作画監督として手がけた映画「ルパン三世 カリオストロの城」で500が大活躍するシーンは、フィアットファンにとって特別な場面といえるでしょう。
自身もフィアットファンである大塚さんに、かつての愛車Nuova 500との思い出のカーライフを語っていただきました。
アニメーション業界やファンの間で、無類のクルマ好きとして知られる大塚康生さん。そんな大塚さんが初めてフィアットオーナーになったのは、55年以上前のこと。
「若い頃、某国産車に乗っていました。ある時、馴染みのセールスマンから『今度、フィアット 500を取り扱うことになったんです』と聞き、実車を見る前に予約しました(笑)。購入の決め手は、デザインのかわいさとルーフがオープンになること。あと、大好きなリアエンジンだったことですね」。そして、大塚さんから驚きの発言が。「そのセールスマンが言うには、僕が初めて乗った500は日本輸入第1号車。つまり、僕が日本初の500オーナーみたいなんです」。
「いままでに乗ったクルマの中で、500が一番楽しかった!」と語る大塚さん。ホワイト、クリーム色、水色と3台乗り継ぐほど、500の魅力にのめり込んだそうです。
「500とは、本当にたくさん遊びましたね」と笑顔で語る大塚さん。
日本各地を500で旅したことは、いまでも忘れられない楽しい思い出で、なかでも一番印象に残っているのは、九州へ行ったことだとか。「当時は、まだ高速道路も完備されていなかったので、東京の自宅から九州まで、ずっと下道でドライブしました。毛布を1枚載せて、車中泊をしながら何日もかけて旅行をしたことは、いまでもいい思い出です」。
そんな楽しい旅の中、フィアットオーナーならではのハートフルな出逢いもあったよう。「行く先々での、人との出逢いも楽しかったですね。その頃、日本にほとんど500が走っていなかったこともあって、声をかけてくる人が多かったですね。すぐに、意気投合したりして。ヒッチハイカーの高校生を乗せて、ドライブしたこともありましたよ」。
人と人との出逢いを生む。そんなフィアットの個性は、いまも昔も変わらないようです。
仕事場まで、愛車の500で通っていた大塚さん。名作『ルパン三世 カリオストロの城』に登場する500は、常に愛車がそばにある環境の中で描かれたそうです。
「スタジオの窓から見えるところに500を停めていたこともあって、スタッフみんなで僕の愛車を見ながらスケッチをしていましたね。当時、僕の500は薄い水色だったんです。ルパン三世の500を黄色にしたのは・・・思いつきですかね(笑)」。日本のアニメーションにおいて、自動車の個性やモデルの特徴を初めて描き分けた草分け的な作品と言われている「ルパン三世」。
細部までこだわって、クルマを描いてきた大塚さんに、車種の選び方のポイントについて聞いてみました。「大切なのは、シンプルな形で描きやすいこと。そして、特徴的でキャッチーなことです。そういった意味でも個性的な500は、作品に描くのにピッタリでした」。
ときにスピーディーに、ときにコミカルに。まるで生き物のように走り回るアニメーションの中の500には、500の陽気な個性と大塚さんの楽しい経験が、たっぷりと活かされているのでしょう。
アニメーションの制作においても、そしてプライベートにおいても、大塚さんにとって欠かせない存在となった500。
インタビュー当日は、奇しくもフィアットの創立記念日である7月11日。しかも、その日は大塚さんの86歳の誕生日でした。そんな記念の日に、いまも愛してやまない500との思い出をにこやかに語る大塚さんの瞳は、まるで少年のようにキラキラと輝いていました。
大塚 康生 Yasuo Ohtsuka
1931年生まれ。アニメーター・作画監督。日本初のカラー長編アニメーション映画『白蛇伝』で動画・原画、『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)で作画監督を務めた。『ムーミン』『ルパン三世』映画 『ルパン三世 カリオストロの城』『未来少年コナン』『じゃりン子チエ』などで作画監督を歴任。
50 年以上にわたり制作スタジオや専門学校で後進の指導を担い、高畑勲氏、宮崎駿氏を筆頭に幾多の人材を育成した。おもな著書に『作画汗まみれ』(徳間書店、文春文庫)、『大塚康生の機関車少年だったころ』(クラッセ)、『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店、高畑勲氏・叶精二氏らと共著)ほか。
自動車をこよなく愛しており、これまでに3台の『500』を所有。ルパン三世での500の活躍は、自身の体験に基づくところも多い。その他、フィアット車では『850』のオーナーとなったこともある。
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