フィアットファンなら、「いつかはイタリア本国で運転してみたい!」という夢を持っている方も少なくないのではないでしょうか。500(チンクエチェント)やPanda(パンダ)など、フィアットの車が沢山走っているイタリアでの運転は、きっとワクワクする体験になるはずです。
しかし、日本人にとっては車線が日本と逆の右側通行になるだけでも、運転のハードルが高くなってしまいます。イタリアでの運転とはいかなるものでしょうか? イタリア在住9年、フィレンツェのFMラジオ局にパーソナリティーとして出演中の小林真子が、現地のリアルな運転事情をお伝えします。
さて、試しに在ミラノ日本国総領事館のWEBサイトにある<安全運転のために>というページをチェックしてみましょう。すると、冒頭から“イタリアにおける運転手のマナーは他の国と変わらず自己中心的で交通ルールはあってないようなもの”という説明が。
ここまで言ってしまうのかと驚いてしまいますが、果たしてイタリアでの運転は日本とどれほど異なるのでしょうか。早速、日本とイタリアの運転事情の違いを比べていきます。
「イタリア人はあまり他人をリスペクトしない運転が多いかな」とイタリア人もイタリア在住の日本人も口を揃えますが、その理由の一つが方向指示器を出さないドライバーが多くいること。
日本では義務であり、ウィンカーを出すことが習慣になっていると思いますが、イタリアではウィンカーを出さずに突然前へ割りこむ運転手がいて、後続車がすぐさまピッピーとクラクションを鳴らすケースにしょっちゅう遭遇します。
日本で運転したことのあるイタリア人女性は「日本では運転がとても静かだったわ。走行中にクラクションを鳴らす車なんて無かったし。それに対してイタリア人の運転はクレイジーよ。イタリア人って普段からおしゃべりでにぎやかだけど、クラクションをすぐ鳴らすわ、運転手同士で走行中に大喧嘩するわ、国民性が運転にも現れているわね」と、イタリア人の国民性に絡めて考察します。
確かに筆者も、運転中にも関わらず窓から身を乗り出す勢いで並走車と大喧嘩をしている光景を何度も見かけています……。
こちらのイタリア人女性は「日本ではみんな車間距離をほどよく空けていて、運転にも礼儀正しい国民性が現れていたわ。おかげで快適に運転ができたの」とも話していますが、実際にイタリアでは「ノロノロ運転し、他人におかまいなしで道を譲ろうとしない」「追い越し禁止車線でも、スピードをあげて煽り運転し追い越していく」という運転が頻繁に見られます。
元フランス在住のイタリア人男性は「高速道路では左から追い越すべきだが、イタリア人はルールを守らず右から追い越す人が多くて、あれにはまいるよ」とボヤきます。これらのエピソードからも明らかなように、イタリア人の交通ルールを守らない度合いは高いといえるでしょう。
イタリアで運転する上で避けては通れないのが、日本人には馴染みのない「ロータリー」。イタリアにはこの信号機のないサークル状のロータリーが多く存在します。
ルールはロータリーに入ろうとする右方向の車両が優先というものなのですが、問題なのはロータリーから出る時。それぞれの出口には行き先が書かれた道路標識がありますが、これを素早く読み取るのが大変!
イタリア在住20年以上の日本人女性は「道路標識はアルファベット表記なので、確認するのに時間がかかる。しかもほとんどの場合、標識は1枚、2枚ではなく、多い時は10枚近くもあって、その前を通り過ぎる一瞬で見つけ出すのは容易ではない。その点、漢字表記の日本語は確認するのに時間がかからなくて便利」と話しています。
実はイタリア人でさえ素早く読み取れずロータリーを何周もグルグル旋回することもあるので、多くの日本人は慣れるまで四苦八苦してしまうはずです。
また、どこの都市にもcentro storico(市内中心地)がありますが、たいていZTL(ゼータティーエッレ)と呼ばれる区域があり、そこは時間帯によって車両通行が制限されて住民しか通行できません。うっかり入ると罰金が課されるので要注意です。
イタリアで運転する場合は、レンタカーのオプションでカーナビをプラスしても、イタリア語または英語のみの表示の場合があるので、日本語で利用できるスマートフォンのナビゲーションアプリを利用しましょう。ロータリーの出口の指示や交通制限区域の表示、また渋滞の案内などもしてくれるのでとても便利です。
歩行者や自転車利用者のマナーの違いも念頭に入れておく必要があります。イタリア人はどんなに人通りや車通りが多い場所でも、車の通行がなければ赤信号でも横断し、中には赤信号で車が向かってきているにも関わらずスキを狙って渡ろうとする歩行者もいます。信号をきちんと守る日本とは大きく異なる環境のため、青信号ですらヒヤッとすることも。
ところで、イタリアでの運転で知っておくと便利な高速道路の“裏技”があるのですが、それは料金所では「クレジットカード利用OK」の列に並ぶこと。イタリア人は「現金主義」の人が多いため、たいてい現金支払いの列が長蛇になります。限られた貴重な旅行時間を少しでも無駄にしないための参考にどうぞ。
イタリアでは多くの人が駐車場を持たず路駐します。日本のように車所持には車庫証明が必要ということはありません。路駐スペースは四角い枠で記されていますが、枠の色によって有料無料が分かれていたり、住民のみOKだったり、時間制限があったりなど、さまざまなルールが存在するので利用時には注意が必要です。
イタリアを旅行した方ならご存知かと思いますが、イタリアの路駐といえば、細い路地にずらっと並ぶ縦列駐車。「え?こんな狭いところに入るの!?」というような場所でもイタリア人はぐいぐい攻めます。
どこの街でも駐車スペースの争奪戦は激しく、日頃から鍛えられているだけあってイタリア人たちはみな縦列駐車がとても上手です。私の知り合いの中には前後いずれも5センチほどのスペースでも、前後の車にぶつけることなく駐車するツワモノが何人もいます。
イタリア人には「駐車場が空いて無ければ自ら作り出せばいい」という、日本人にはなかなか信じがたい発想があり、「こんなところに駐車ってアリなの?」というところに車が停まっていることも。
イタリアで暮らすようになって10年近くになりますが、イタリアで最初に驚いた車事情は、ほぼ全ての車がマニュアル車(MT)であったこと。そして今でもその状況に変わりはなく、相変わらずMT車が主流です。
私の免許は日本では全く不便を感じなかったのでオートマ車(AT)限定なのですが、イタリアに来て友人たちの車が全てMT車だったため「運転できる車が全く無いではないか!」とびっくりしたことを今でも覚えています。
「日本ではマニュアル車を見かけることはほとんど無くなったよ」とイタリア人たちに話すと、「自分で車を操れるから面白いのに、その面白みを無くしてしまったら、何のために運転をするの!?」と非常に驚かれます。あらゆる世代の男女にこのことを話してきましたが、全ての人から同じ反応があり、MT車主流というのはイタリア人たちが運転好きの証なんだなと実感しています。
実際、イタリア人たちは運転を楽しんでいる人が多く、これまで数え切れないほどイタリア人たちが運転する車に乗ってきましたが、運転マナーはさておきドライバーの多くは運転が上手だと感じました。
イタリアでは「イタリア人は運転すると性格が変わる」とよくいわれていますが、これは案外そうでもない気がします。日本で「運転はその人の性格を表す」というように、イタリアでも人によるのかなという印象です。運転でがらりと性格が変わった場合、強烈に記憶に残るため、そんな風にいわれるのかもしれません。
イタリア人の女友達と一緒に、彼女のお母さんが運転する車に乗せてもらった時のこと。彼女のお母さんはおっとりした上品なご婦人なのですが、友人からは事前に「母は運転すると性格が変わるけど気にしないでね」と小声で耳打ちが。何事かと思う暇もなく、お母さんは運転を始めるやいなやパロラッチャ(イタリア語のスラング)の嵐を開始!「耳を塞ぐのよ、聞いてはだめよ!」と友人に言われながらのドライブは生涯忘れられない思い出となりました。
ここまで読んだ方は「イタリアでの運転って、なんだかハードルが高そうだな」と及び腰になるかもしれませんが、そのハードルを飛び越えてでもイタリアで運転をするメリットがあります。それは、運転さえできればイタリア観光の可能性ははるかに広がるということ。
私はこれまでにイタリア全20州のうち18州を旅しましたが、そのほとんどが車の旅です。車での移動は自由度が桁違いで、交通の便が悪くて行きづらい魅力的な集落や絶景スポットへも思うがままに行けるようになります。
車移動だと、旅の目的地へ行く途中に偶然見つけた美しい街へもふらりと立ち寄れるし、しょっちゅう遅れるバスや電車の無駄な待ちぼうけを食らうことも無く、時刻表も気にしないで自分のペースで旅を楽しめます。
昨年の夏には北イタリアを車で回りましたが、ヴェローナ近郊を走行中、断崖に何かが埋め込まれているような光景をふと目にしました。
そこで、すぐに予定を変更してその断崖絶壁にある「何か」の正体を突き止めるべくその方向へ向かったのですが、そこは以前から行ってみたいと思っていた断崖絶壁に建てられたコロナ教会でした。車での移動だからこそできる急な寄り道、そしてそんな寄り道もまた素敵な思い出になったりするのです。
車での移動は手荷物の心配をしなくていい点もとても魅力的です。イタリアの場合、日本に比べてスリが多く、公共交通機関内でも手荷物には常に目を配る必要があります。もちろん停車中の車上荒らしには気をつける必要はありますが、走行中はスリへの心配は無用。また、旅先で重いワインなどのお土産を買って荷物が増えても、車移動なら安心です。
ところでイタリアでフィアットを運転してみたいけど一人じゃやっぱり不安…という方にはフィレンツェを500ヴィンテージで巡るこんなツアーもありますよ。美しい景色を背景にフィアットと一緒に記念撮影を楽しめるなどフィアット好きにはたまらない内容なので、このような現地ツアーを利用するのもいいかもしれません。
コロナ禍でイタリア旅行はまだ当分先かもしれませんが、今のうちに縦列駐車のテクニックを磨き、次回の旅行には国際免許証を持参してみてはいかがでしょうか。イタリアでの運転は色んな意味できっと忘れられない体験になりますよ!
text・photo:小林真子
フィレンツェ在住。元静岡朝日テレビ報道記者。2012年よりフィレンツェ在局FMラジオ番組レギュラー出演。イタリアの労働ビザを取得し、イタリア製アイテムのオンラインショップ「AmicaMako(アミーカ・マコ)」を経営。「週刊新潮」「ITALIANITY」等でイタリア関連の記事やコラムを執筆。
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