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#Room to Read

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低所得国の子どもたちに教育のギフト(贈り物)を。ルーム・トゥ・リードの活動とその思いを聞く。

Room to Read(ルーム・トゥ・リード)は、アジアやアフリカなど16カ国で子どもたちに教育支援を行なっている国際NGO。支援先の国々では、今なお貧困や文化的背景から、教育環境が行き届いておらず、読み書きができない子どもが多くいるほか、男女間の教育格差が存在するといいます。今回は、ルーム・トゥ・リード日本法人の事務局長、松丸佳穂さんに、低所得国の教育を取り巻く問題や、その解決に取り組む活動についてうかがいます。     日本にいると初等教育で字を習うのは当然のことのように考えてしまいがちですが、世界に目を向けると、読み書きができない方というのはどれ位いるのでしょうか。 「世界では読み書きができない非識字人口は10億人近くいて、成人でも7億5000万人以上が基本的な読み書きができないというデータがあります。さらにその3分の2は女性や女の子で、低所得国では4人に1人の子どもが読み書きができません」   かなりの数ですね。ルーム・トゥ・リードでは、どのように教育支援を行なっているのでしょうか? 「ルーム・トゥ・リードは、質の高い教育によってすべての子どもたちが自分の可能性を最大限に発揮し、地域社会や世界に貢献できる世界を目指しています。教育における識字と男女平等に焦点を当てることで、低所得層のコミュニティに住む何百万人もの子どもたちの生活を変えようとしています。私たちの支援活動は、大きく分けて2つあります。ひとつは、初等教育の子どもたちの識字能力と読書習慣を育成する “識字教育プログラム”です。先進国では、義務教育の過程を通じて、自然と識字能力を身につけていきますが、私たちが支援しているアジアやアフリカの低所得国では、現地の言語で書かれた本や教材がほとんどなかったり、そもそも学校に図書室がなかったり、先進国では当たり前に存在するものが圧倒的に不足しているのです。そこでルーム・トゥ・リードでは、現地語による本や教材の開発から図書室の開設、教師や司書のトレーニングなど、子どもたちが生涯自立した読書家になれるよう読み書き学習に必要な支援活動を行なっています。もうひとつは、“女子教育プログラム”と呼ばれるもので、少女たちが学業における成功と、卒業後の豊かな人生のための必要なライフスキルを身につけ、高校を卒業できるように支援しています。なぜ支援対象が中学・高校の女の子かというと、小学校のうちは男女間で就学率の差というのはあまりないのですが、中学、高校と上がるに連れ、女の子の進学率は下がり、中退してしまう子も多いのです。その理由はいくつもあります。貧困から学校の代わりに、家事労働に従事する女の子も多いです。また、女の子に教育はいらないという文化的偏見やジェンダー差別、また、安全性への懸念もあります。中学や高校が近くになくて、家から5km、10kmと離れていることもよくあります。舗装されていない道を1時間や2時間歩いての通学は、体への負担だけではなく、身の危険にも晒されるますから、親が行かせたがらないこともあります。さらに学校に通えても、女性の教員が少なかったり、男女別のお手洗いがなかったり、女の子にとって学校が安心できる場所ではないという理由もあります。また、世界では結婚や出産を18歳未満で経験する女の子がいます。“児童婚”と呼ばれていますが、これも女の子が学校に通うことができない大きな要因のひとつになっています。このように、本人に学習意欲があったとしても、様々な理由から学校に行けなくなってしまうのです」     セキュリティやインフラ面、さらに社会環境が弊害になることが多々あるのですね。そのような問題に対して、どのようにアプローチしているのでしょうか? 「ルーム・トゥ・リードの女子教育プログラムは、少女が学校に長くとどまり、物事を判断する基準やプロセスを持ち、日常にある課題に対し自分で対処する自信を育み、意思決定ができるスキルを身に着けたうえで、高校を卒業ができるように設計しています。その一つとして、中学から高校までの間に、40から60のライフスキル教育、文字通り“生きるための力”を学ぶ授業を提供しています。 批判的思考や自尊心、自立心は、日々の課題に対処し、十分な情報に基づいた意思決定に役立ちます。こうしたスキルを身につけ、それを日常生活にどう役立てるかを学習した女の子は、性差別に対処する方法から勉強のための時間をどう作るかまで、今後直面するかもしれない障害を克服し、卒業後の生活に備えることができます。 最初は、自分の意思で物事を判断する習慣がなかった子どもたちは、“私って何?”“好き・嫌いって?”というところからスタートします。最初は、自分が“嫌”という気持ちをどう表現したらいいかも分からないのです。高校生になると、キャリアや試験対策、性的権利や安全性、ディベートやコミュニケーションなどを学びます。 ライフスキル教育に加えて、女の子にメンターとなる女性のメンターも重要です。私たちはソーシャルモビライザーと呼ぶ、地域社会における強力なロールモデルとなる女性を派遣しています。少女達が生活の中で直面する可能性のある問題に対処するために、メンタリングのセッションを実施しています。セッションは、グループ単位、あるいは個人に対しても行われます。少女にアドバイスを与えたり、心理的なサポートを提供すると同時に、教師や家族と緊密に協力して、課題に対処していきます。自分の悩みや思っていることを相談できる人が身近にいるというのはとても重要で、親にも言えないことをメンターに相談し、問題を一緒に乗り越えていくのです。いつも見守ってくれる人がいて、学校に行けば同じように頑張っている仲間もいる環境というのが、女の子たちの大きなモチベーションになっているのです」     コロナ禍で学校に戻れないリスクも   見守ってくれる人がいれば心強いのは誰でも同じですね。ところでコロナ禍の影響はいかがでしょうか? 「コロナの影響は計り知れないほど大きいなか、子ども達が教育現場から取り残されることがないよう、できることから迅速に対応をしてきた年でした。コロナに関するニュースは毎日報道されていますが、低所得国の状況はほとんど伝えられていません。パンデミックや自然災害が起こると、大きな影響を受けるのが、社会的に立場が弱い女性や子どもたちです。教育面でいうと、日本を含めて先進国では多くの学校でオンライン学習に移行しましたが、ネパールやタンザニアなど、ルーム・トゥ・リードが支援を行っている国々では、インターネットが普及しておらず、すべてをオンライン学習に移行することができません。ただでさえ貧しいなかでコロナが直撃し、両親が失職し、早すぎる結婚やジェンダーに基づく暴力、人身取引、中途退学なども報告されています。 低所得層のコミュニティにいる何百万人もの子どもたちにとって、コロナによる学校閉鎖は、一時的な学びの“中断”ではなく、学びの“消失”を意味します。読書の消失、学びの消失、そして自らの人生や所属するコミュニティに明るい変化をもたらすという夢の消失です。 ルーム・トゥ・リードの遠隔学習プログラムは、インターネットに依存していません。ラジオ、テレビ放送を通じての授業提供、電話、テキストメッセージを通じてのフォローアップ、他団体と協力して各家庭への印刷教材の配布など、子どもや保護者たちが最も利用しやすいチャンネルを通じて、支援を行っています。また、インターネットにアクセルできる人達には、デジタル学習プラットフォーム「リテラシークラウド(英語)」を無償で提供しています。読解レベルと言語で分類された絵本21か国語1000タイトル以上がアップロードされた豊富なオンラインライブラリに加え、教師、児童書作家、国際的な出版界のメンバー、政府向けの読み聞かせビデオや専門的な開発リソースが掲載されています。 また、女の子たちに対して、職員は電話でメンタリングセッションを行い、危機を乗り越えるべく精神的に支え、自宅で学業を続けるためのサポートを行っています。また、安全で健康的な生活を送れるよう情報提供し、学校が再開した際にスムーズに戻ることができるよう課題解決を一緒に行うなど、遠隔でサポートを行っています」     教育環境がより深刻になっているなかで、ラジオやテレビで支援を行なうなど、ルーム・トゥ・リードの活動の規模やスピーディな対応力には目を見張るものがありますが、スタッフの方はグローバルでは何名ぐらいいらっしゃるのでしょうか? 「ルーム・トゥ・リードの職員は、グローバル全体で約1600人、うち9割はプログラムを実施している支援国に在籍しています。ルーム・トゥ・リードの活動資金は、主に皆さまからいただく寄付金を使わせていただいていますが、間接費を徹底的におさえ、寄付の透明性にこだわり、組織や活動をビジネスと同じようにスピード感をもって運営しているのが特徴です。米国には慈善団体を評価する“チャリティナビゲーター”という第三者機関があり、財務の健全性、説明責任、透明性を重視しており、その評価基準はとても厳しいですが、ルーム・トゥ・リードは最高評価である4つ星を獲得しています。私達はお預かりした寄付の85.9%を、支援国における教育プログラムの実行のために投入していますが、寄付金が健全に運用され、世界を変革していくためのミッションが着実に達成されているということを裏付けるものです。また、昨年は設立から20周年のタイミングでしたが、現在までに1800万人以上の子ども達へのサポートを実現しています。ただ、最初にも申し上げましたが、世界では読み書きができない非識字人口はまだ10億人近くいて、低所得国では4人に1人の子どもが読み書きができません。私達は、2025年までに4000万人の子ども達に教育を届けるという新たな目標を掲げています」   次に日本での活動についてお聞きしたいのですが、主な活動は支援者を集めることでしょうか? 「そうですね。日本ではルーム・トゥ・リードの活動を知っていただくための啓発活動と資金調達活動を行っています。もちろん経費も厳しく見ていて、現在、日本にはオフィスは2拠点ありますが、企業や個人から無償で提供いただいます。また、日本には職員は私一人しかおりませんが、多くの企業のプロボノや個人のボランティアサポーターの皆さんに、資金調達からイベントサポート、翻訳やウェブサイトのリニュアル、SNS、事務局のサポートに至るまで、日々の活動を一緒に支えていただいています。フィアットさんにも秋に開催したバーチャルガラではイベントスポンサーとして協賛していただきました。 コロナのようなことがあると、自分達の生活も先が見えなくなってしまい、報道でもルーム・トゥ・リードの活動地域のニュースはほとんど流れませんので、どうしても内向きになってしまうことが多いと思います。ただ、少し外に目を向けていただいて、学校閉鎖によって、二度と教育現場に戻ってこられないかもしれない子ども達がいることにも思いを寄せていただけたら嬉しく思います。もちろん、日本にもコロナ禍で浮き彫りになった課題はたくさんあり、そのサポートをしている団体もたくさんあります。自分が関心を持つ課題に対して、自分ができることはないか、アクションを起こすことが大切だと思います。そこはまさに、フィアットが提唱している“Share with FIAT”の精神だと思います。ルーム・トゥ・リードが提供している女子教育プログラムもそうですが、私たちは、誰でもひとりでは絶望的な気持ちになってしまうことでも、周りの支えがあることによって勇気が得られます。個人個人が自分が持っているものを少しずつShareすることで、世界は大きく変わると信じています」     松丸さんは日本法人の立ち上げからずっとやられていて、こういう組織にしていきたいという思いはありますか。 「私は自分が前に出て、組織の顔となって引っ張っていくタイプではありません。ただ、ルーム・トゥ・リードのビジョンに共感していただいて、リーダーシップを持った素晴らしい人を巻き込んでコミュニティやチームを作ることを得意としています。毎年クリスマスの時期に、寄付キャンペーンAction for Educationを開催しているのですが、昨年12月はコロナ禍にいる子ども達に教育のクリスマスプレゼントを届けようと呼びかけました。日本全国から、そして海外からもご支援をいただき、おかげさまで目標を大幅に達成し4,144名の子ども達をサポートすることができました。 資金調達に際しては、32名もの多才なサポーターたちが自らチャレンジャーとなって、自身の好きなこと、得意なことを生かして、続々とユニークなファンドレイズのプロジェクトを立ち上げてくださり、寄付を募ってくださいました。お金に余裕のある方は寄付をしてくださったり、スキルがある方はご自身のスキルと時間を提供してくださったり、関わり方は様々です。一人ひとりが自分ができることをアクションしてムーブメントにしていくことがルーム・トゥ・リードらしさだと思っています。結果としてプロフェッショナルな方が集まってくださり、お一人おひとりが機会を生かして行動を起こしてくださったおかげで、子ども達、家族、コミュニティの将来に大きな変化が生まれているのです。」   最後に2021年の抱負を教えていただけますか。 「2020年はコロナ禍で春に予定していた資金調達を目的としたガラパーティや数々のイベントがすべてキャンセルになり、前半は資金調達の点では非常に苦しい状況となりました。ただ、秋に、これまで手がけたことがなかったバーチャルでの資金調達イベントを何度か開催し、おかげさまで多くのご支援をいただくことができました。バーチャルの利点としては、首都圏以外の支援者の方々にも多数ご参加いただけて、また、海外からも多くのゲストスピーカーがご参加くださいました。さらに、タイムリーに参加できない方には録画を共有することもできました。今年も、ルーム・トゥ・リードの活動を知っていただきたいので、バーチャルという新たな機会も生かしながら、状況を見ながらですが、リアルイベントなどとハイブリッドの組み合わせで進めていけたらと思っています!」   今日はお忙しいなか、ありがとうございました。       ルーム・トゥ・リード公式サイト ルーム・トゥ・リードのSNS(Facebook・Twitter・Instagram) フィアットが大切にしているシェアの気持ち「Share […]