博物館と一言で言ってみても、さまざまなジャンルのものが存在していますが、500(=チンクエチェント)ファンにとって、一度訪れてみたい博物館と言えば、歴史に名を刻んできた貴重なモデルに会える『チンクエチェント博物館』ではないでしょうか。
チンクエチェント博物館は、愛知県の知多半島の先端に位置するチッタナポリの敷地内の一角に存ります。こちらの施設は、穏やかな海に面した立地を生かした、イタリア的ムードを採り入れたリゾート地。私たちは名古屋方面から知多半島道路、南知多道路を伝って南下、豊丘ICを降りて一般道を10分ほど走り、丘の上の博物館に到着しました。
建物の1階にあるフロアには、小さなボディの500たちがズラリと並んでいます。クルマが見渡せる一段高い場所にはカフェテーブルがありますが、ここでは入場者にエスプレッソが振る舞われます。
また、隣の部屋にはFIATのミニカーやステッカーなど、レアアイテムも含めてさまざまなグッズが展示されています。
普段は目にすることができない歴史的なモデルや貴重なアイテムに心を惹かれてしまう空間。まずは副館長の深津さんにこの博物館の楽しみ方について、お話を伺ってみました。
深津「自動車の博物館というと、1台1台をじっくり眺めていくことが一般的ですが、ここでは500と共に過ごす時間を楽しんでいただくというスタイルをとっています。館内は見渡せてしまうほどの小さなスペースなので、クルマもインテリアの一部として観てもらいながら、500と一緒に時間を楽しんで欲しいですね。」
窓の外には知多湾の海に浮かぶ島々。リゾートらしい景色の中、歴代のFIAT 500に囲まれていると、クルマ談義に花が咲き、当時のクルマ達が活躍していた時代背景に自然と興味がそそられていきます。
また、ここでは現行モデルの500とNUOVA 500(1957年-1977年)とのボディサイズやボディ色、ディテールの違いを比べてみて欲しいとのこと。そうすることで、1950年代に登場していたNUOVA 500のパッケージングの完成度の高さを再確認できるといいます。
深津「歴代のモデルを見ていくと、戦争の影響などでボディに使用される鉄が手に入りにくく、鉄の使用量を抑えるために前方投影面積を減らしたシルエットに工夫して作られていた時期もあるようです。それに対して、現在は原材料が手に入れやすくなり、プレスの加工技術も進化したことで、Pandaのようにがっちりとした四角いボディ形状のクルマも存在してきたりと、時代が持てる技術と経済環境がクルマ作りにも反映されているようです。」
大衆車を作るという目的の下で生まれたトポリーノは、水冷式の直列4気筒エンジンを前車軸の前方に搭載するという、当時としても画期的な手法が採用されたクルマ。なおかつ、空力性能にも優れた曲面ボディが特徴ですが、美しいスタイリングでありながら、乗員の居住スペース確保に配慮されているパッセンジャーカーです。
こちらの展示車は、1957年に発表されたNUOVA 500で、現行の500のデザイン・モチーフとされています。この車両は、1957年の最初期に、半年間だけ生産されていたという『プリマ セーリエ ファースト シリーズ』。
今ではコレクターズアイテムにもなっているというこの貴重なモデルは、サイドウィンドウが開かないタイプで、後部座席を持たない2シーターであることが特徴です。
同年、FIATは内外装をグレードアップした500スタンダードを発売。このスタンダードが大ヒットとなり、500の人気は急激に上昇しました。後部座席が取り付けられた4シーターのスタンダードは、サイドウィンドウが開くように実用面も改善されていたそうです。
また、博物館には、さまざまなカロッツェリアがボディの製作を手がけたユニークな作品も存在しています。
そのひとつが白いオープンボディをもつ1959年式の『500 GHIA JOLLY(ギア ジョリー)』。カルマンギアでその名を知られるGHIA社が手がけたオープンスタイルのビーチカーは、ルーフやドアを持たない、割り切った設計になっています。シートは籐編みになっていて、水着で座ってもOK。イタリアのビーチ周辺は狭い道が多く、小さなボディをもつ500が活躍していた様子が目に浮かびます。
そして、赤いラインがボディサイドを走るこちらの勇ましい500は、1958年に登場したというNUOVA 500 SPORT(スポルト)。ABARTHが手がけたモデルは、サスペンションがスポーティなものに変更され、エンジンのチューニングやメーターを変更するなど、ファインチューニングが行われていました。
歴代の500に魅せられたユーザーたちとともに、さまざまなイベントを提案している伊藤さん。500と共に過ごすライフスタイルの魅力について、お話を伺ってみました。
伊藤「500がもたらすものは、その人によって違うと思います。例えば、同じ属性をもつ人同士で仲間意識を共有したい場合、クルマを持つことでオフ会に参加することもできます。500をネタに話をするというのも、楽しい時間ですよね。
道具としてクルマを見た場合、現代のクルマは各部の部品の精度が上がって、信頼性が増したことも嬉しい事です。500は個性的なクルマですが、壊れにくい分、余計な心配が少なくてすみますし、安心して購入することができます。もちろん、普段から遠慮無く乗ることができるクルマです。
国産車などのコンパクトカーと比較すると、500はとてもフルートフルなニュアンスを与えてくれるクルマだと思っています。500に乗ると、今まで気がつかなかったことに気づくようになる。「エンジンのフィーリングが気持ちいい」とか、「インテリアのデザインがいい」とか、人によって受けとめる部分は違いますが、これまで目的地までの単純な移動手段だったはずのクルマが、移動する過程が楽しくてウキウキするようになる。つまり、移動することが単なる目的ではなくなるのです。
さらに、クルマ自体が可愛く思えてくる。まるで恋愛対象のように思えてくることがあるのです。
例えば、人を好きになると、その人についてもっと知りたいという感情が芽生えることがあります。やがて、その人の興味の対象を調べて共感しまったりする。クルマは機械や物と同じはずなのに、500は人からそうした感情を引き出してしまうことが凄いことだと思います。つまり、500は人を変えてしまうくらいのエネルギーをもった存在といえるわけです。
新しい500についても、昔のモデルに通じる魅力が実に巧く受け継がれていて、新旧のモデルは全て繋がっているのだと思いました。現代の500が最新のテクノロジーを採り入れてボディが大きくなり、格好だけ真似していたとしたら、本当の意味で500ではありません。500の進化は、まるで子供に対して「お父さんとお母さんの血は争えないね」と言われているような微笑ましい進化を遂げているのです。」
伊藤「チンクエチェント博物館は10年の準備期間を経て2001年にオープンしました。しかし、その一方で『ただ単に古いモデルを見せて研究するのが博物館なのか?』という思いもありました。私がやりたかったのは、遠くから眺めているだけでは分からない、クルマが持つ雰囲気やニュアンスを感じてもらうこと。現代社会は何かとストレスを抱えることが多いものですから、クルマを観察するときはゆっくり過ごしてみないと、見えるものが見えなくなってしまいます。
それぞれのクルマが持つ雰囲気を感じ取ってもらうために、チンクエチェント博物館では、ユーザーと共にクルマを楽しむ様々なイベントを開催しています。2011年は、「普段クルマを見ることができない」という人たちに向けて、私たちがクルマに乗って外に赴く『移動博物館構想』をスタートさせました。 これは、イベント会場にやってきた来場者が単にクルマを駐車するのではなく、やって来たクルマをそのまま展示してしまうという発想。古いクルマでも、そのクルマのことを知らない人にとっては、いろいろなクルマを目にすることができるチャンスとなって、友人達と盛り上がることができるんです。
まずは、自分達が楽しいと思うことをやってみる。
集まってくるクルマたちも、メーカーも限定せず、来る人を拒まず受け容れていく。すると、私たちのコンセプトに共感する人が現れてきて、一日中クルマの馬鹿話をしたりしながら、楽しむことができるんですよ。」
博物館という枠を飛び越えた『移動博物館』という発想。こうしたイベントは各地で開催され、今では多くのクルマファンが集い、クルマを通じて人々が笑顔になれる場として盛り上がりを見せています。
世代を超えたクルマたちが集う場所に赴き、歴史を重ねたクルマの世界に触れてみる。これまでに気づかなかった意外な発見がアナタを待ち構えているかも知れません。
■取材協力:チンクエチェント博物館
http://www.museo500.com/
〒470-3502
愛知県知多郡南知多町片名長谷58-22 チッタナポリ内
TEL 0569-64-6464
入館料 : 1000円 (小学生以上)
開館日 : 土・日※
(※ 開館日はホームページをご覧ください)
会館時間:10:00〜17:00
藤島知子(モータージャーナリスト)
幼い頃からのクルマ好きが高じて、スーパー耐久のレースクイーンを経験。その一年後、サーキット走行はズブの素人だったにもかかわらず、ひょんなことから軽自動車の公認レースに参戦することになる。以来、レースの素晴らしさにどっぷりハマり、現在は自動車雑誌やWeb媒体で執筆活動する傍ら、箱車にフォーミュラカーにと、ジャンルを問わずさまざまなレースに参戦している。
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