恒例のクラシックカーの祭典「ラ フェスタ ミッレミリア」が10月14日から17日にかけて、約1200kmの道程で開催された。全131台のエントリーのうち、出走台数が17台を数えたヴィンテージ フィアットの魅力を、参加者に聞いた。
ミッレミリア(Mille Miglia=イタリア語で1000マイル)とは、その名のとおりイタリア全土を1000マイル(約1600km)にわたって走る公道レース。1927年に始まり、第二次大戦による中断を挟み、交通事情の悪化によって57年に終焉を迎えるまでに幾多の伝説を残した。
明治神宮の森に囲まれたパドックに、131台の参加車両が集まった。
それから20年後の1977年に、以前のようなスピードではなく、あらかじめ設定されたタイムに対して、いかに正確に走れるかを競うクラシックカーラリーとして復活した。その復活版ミッレミリアの日本版が、1997年に初開催された「La Festa Mille Miglia(ラ フェスタ ミッレミリア)」。国際クラシックカー連盟(FIVA)の公認を受けた、日本最大のクラシックカーラリーである。記念すべき20回目となる今回は、10月14日に東京原宿・明治神宮をスタート。4日間で1都7県にまたがる約1200kmを走破した。
参道を神宮橋に向かう1954年「フィアット 1100TV ピニンファリーナ」。1100TVにピニンファリーナ製のクーペボディを架装したモデル。フロントグリルに“TV”の文字をあしらっている。
フィアットは、公道レースとして開催された24回のミッレミリアのうち、じつに20回において最多の出走車両を数えた。全出場車の半数以上をフィアットが占めたこともある。小排気量車主体だったため総合優勝こそないが、クラス優勝は数えきれないほど挙げている。けっして誇張ではなく、フィアット抜きではミッレミリアは成立し得なかったのである。
神宮橋に敷かれたレッドカーペットの上で、1台ずつ紹介されるセレモニアルスタートにおける1933年「フィアット508バリッラ」。ここからタイム計測が始まる。
今回のラ フェスタ ミッレミリアでも、フィアットのエンジンやシャシーを流用した小規模メイクのモデルを含め、エントリー131台のうち17台を数えた。なかでも3台出場したのが、ミッレミリアでクラス優勝歴もある、戦前のライトウェイトスポーツの傑作である「ティーポ 508S バリッラ スポルト」。いわば今日の「124 スパイダー」のルーツ的なモデルである。
1936年「508Sバリッラ スポルト」で参加した斉藤保さんと、コ・ドライバーを務めた奥様の裕美さん。このバリッラ スポルトは、標準より長くてスタイリッシュなノーズを持つスペシャルとのこと。
美しいブルーのツートーンに塗られた1936年「508S バリッラ スポルト」で参加したのは、斉藤保さん。ラ フェスタ ミッレミリアの参加は10回目となるが、このクルマでは今回が初めてという。
「これは、1年弱前に先輩から譲り受けました。以前から顔つきと後ろ姿、そしてこのカラーリングが大好きで、憧れていたんですよ。戦前車を所有するのは初めてなのでいささか不安でしたが、想像していたよりずっと乗りやすいですね。間口が広いというか、そのあたりがフィアットらしいと思います」
次は、これまたシックな塗り分けが施された1954年「1100TV」。フィアットらしい箱形のベルリーナ(セダン)だが、車名のTVはツーリスモ ヴェローチェの略。往年のミッレミリアで、53年から57年まで5年連続でクラス優勝に輝いた高性能セダンだ。これで参加した山口明孝さんは、フィアット歴40年以上というエキスパートである。
山口明孝さんと1954年「フィアット1100TV」。53年に“ヌオーヴァ・ミッレチェント”として登場した1100シリーズは、改良と変更を加えながら、「128」がデビューする69年まで作られた。
「20代で“ヌオーヴァ 500”に乗り始め、数年後に“アバルト 695SS”に換えました。加えて今はこの“1100TV”、そして(初代)“ムルティプラ”にも乗ってます。ラ フェスタは今回で10回目。“1100TV”では6、7回出てますかね」
山口さんは、ほかにも「スタンゲリーニ」や「バンディーニ」といったイタリアン軽スポーツを所有しているが、ここ数年はもっぱら「1100TV」でイベントに出場。昨年は、なんと年間6000kmも走ったという。
「エンジンはよく回るし、回転を落とさずに走らせれば、そこそこ速いです。これに限らずフィアットはサード(3速)のレンジが広くて、こうしたイベントで田舎道を走らせると、本当に気持ちいいんですよ」
参加者はチェックポイントで通行証明印をもらう。スタンプを押しているのは、FCAジャパン マーティング本部長ティツィアナ アランプレセ。
ラ フェスタ ミッレミリアの最初のチェックポイントが設けられた東京 代官山T-SITEでは、10月14日の夜と15日に「HERITAGE Auto Garden(ヘリテージ オートガーデン)」を開催。フィアットをはじめアバルト、アルファ ロメオなどイタリア車の新旧モデルと、そのヘリテージにまつわる展示が行われた。
ヘリテージ オートガーデンに展示された「500 ツインエア ラウンジ」と、会場に居合わせたかわいいファン。
最新の「500 ツインエア ラウンジ」を中心とするフィアットのブースには、歴史を感じさせる展示に加えて子供が遊べるコーナーも用意され、親しみやすい雰囲気だった。そのいっぽうで、設置されたディスプレイには、かつてレースを席巻していた時代の映像も流れていた。
ディスプレイに流れる映像は、1920年代に作られたフィアットのレーシングカー。
フィアットといえば、オシャレでカジュアルなブランドというイメージを抱いている人々にとっては、その姿は意外に思えたかもしれない。だが、親しみやすい姿の内面には、ミッレミリアをはじめとするモータースポーツで培われたスピリットが今も脈々と流れているのだ。フィアットとは、そうしたヘリテージを持つブランドなのである。
4日間で約1200kmのドライブを終え、再び神宮橋に戻りフィニッシュした1954年フィアット1100TV(撮影:沼田亨)。
取材・文 沼田亨
撮影 荒川正幸
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