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12年間ありがとう!歴史に名を刻んだ史上最高のTwinAirエンジン

2023年の10月で生産終了となったTwinAir(ツインエア)エンジンを特集。ツインエア エンジンが生まれた背景や歴史、どのような特徴があって、どのようにフィアットファンから愛されてきたかについて自動車ライター嶋田智之さんに綴っていただきました。   インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー受賞のツインエア いずれそのときが来るだろうと、うっすら考えてはいました。カーボンニュートラルが最優先事項として語られるようになり、自動車の電動化が着々と進んでいく時代になれば、いずれ多くの内燃エンジンが表舞台から姿を消していく。ある意味それは既定路線のような出来事。だから、驚きはありません。ただ、ちょっとばかり寂しいな、と感じます。 何のことか。「名機ツインエア エンジンが2023年の10月末をもって生産終了となってしまった」というお話です。 母体となるStellantisの方針に則って、すでにフィアット・ブランドも電動化へと大きく舵を切っています。おかげで『500e』という素晴らしいバッテリーEVが誕生し、新たな笑顔を生み出しています。それはとても素敵な出来事。 けれどその一方で、はっきりとしたユニークなキャラクターとほかに似たものがないフィーリングで12年間にわたって僕たちをニコニコ顔にさせてくれたツインエア エンジンがこれからは手に入らなくなるという現実には、抗うことのできない時代の流れとはいえ、センチメンタルな気持ちにさせられますね。     ツインエア エンジンが最初にお披露目されたのは、2007年のフランクフルト・モーターショー(ドイツ国際モーターショー)でした。『Panda(パンダ)』をベースにした環境配慮型のコンセプトカー『Panda Aria(パンダ アリア)』のパワーユニットとして搭載されていたのです。徐々に主流になりはじめていたダウンサイジング・コンセプトを大きく突き詰めた排気量が1ℓを下回る直列2気筒という考え方は、玄人筋には衝撃を与えましたが、搭載車両がコンセプトカーだったこともあって、世のクルマ好きには今ひとつ注目されませんでした。 僕たち普通のクルマ好きが“ツインエア”という存在から衝撃を受けたのは、それから2年半後の2010年のこと。ジュネーヴ・モーターショーで量産型が発表されたばかりか、その直列2気筒は『500』に搭載され展示されていたのです。先祖にあたる稀代の名車『Nuova 500(ヌォーヴァ チンクエチェント)』をストレートに連想させるモデルの誕生が、多くのフィアットファンを喜ばせたことはいうまでもありません。     ツインエア エンジンにはいくつか仕様がありますし、フィアットのみならず後にランチアにもアルファ ロメオにも採用されましたが、日本にもたらされたのはボア×ストロークがφ80.5×86.0mmの875ccインタークーラー付ターボで『500』『500C』『Panda』に搭載されました。 このパワーユニットには、当時のFGA(現Stellantis)のパワートレイン開発を一手に担っていたフィアット・パワートレイン・テクノロジーズ社が長い時間と莫大な予算を投じて作り上げた、『マルチエア』と呼ばれる油圧式吸気バルブ開閉機構が備わっています。それが排気量や気筒数と並ぶ、もうひとつの特徴。少し小難しい話に感じられるかもしれませんが、マルチエアは一般的な内燃エンジンと異なって吸気側のカムシャフトを持たず、代わりに電子制御された油圧ピストンが吸気側のバルブの動きを司っています。吸気バルブの開閉量やリフト量を緻密かつ自在にコントロールしていくことで、低回転域でのトルク不足、出力不足、燃費の悪化といった、小排気量化に伴うデメリットを解消しようという仕組みです。     結果、得られた最高出力は85ps/5,500rpm、最大トルクは145Nm/1,900rpm。燃費はWLTCモードで19.2km/L(『500』の場合)。排気量や気筒数を考えれば、なかなか優れた数値といえるでしょう。そうしたデータだけが評価されたわけではありませんが、デビュー翌年のインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーにおいて、1ℓ未満のベスト・エンジン、ベスト・ニュー・エンジン、ベスト・グリーン・エンジン、そして最高賞であるインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー2011を獲得し、「積極的なダウンサイジングが臆病なパフォーマンスを意味するものではないことを証明している」「驚くべきパフォーマンス。ツインエアは、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー・アワードの歴史にその名を刻んだ」「史上最高のエンジンのひとつ」と極めて高い評価を得たほどでした。   次のページ:【有機的な味わいのあるエンジン】 […]