ミニバンから『500 Sport』に乗り換えて以来、「すっかりフィアット沼にハマりました」と話す古田 真(まこと)さん。『500 Sport』の購入から1年後に『Panda 4×4』を増車し、その1年後に、旧い『126』を注文すると共に自宅にガレージを新設。さらに駐車場が屋根付きになったことで『500 Sport』をカブリオレの『500C 60th』に代替えするなど、現実世界にユートピアを築いています。一体何が古田さんを突き動かしているのでしょうか? お嬢さんからの「もっと人生を楽しんで」のひと言 フィアットとの出会いを教えていただけますか。 「以前乗っていた国産ミニバンが10年・10万kmを迎えるということで、乗り換えを検討していたんです。子どもたちも大きくなったし、もともとクルマ酔いするので家族で出掛ける機会はあまり多くなかったんです。そうしたなか、次のクルマを何にしようかと、輸入車も視野に入れて見ていたんです。高校生になった娘から“パパ、これからは自分の人生をもっと楽しんで”と言われたことも頭の片隅にありました。そんな折、私に強烈なインパクトを与えたのが、この『500 Sport』の広告だったんです。ブルーのボディカラーとスポーティな雰囲気が心を打ち、そのビジュアルが頭から離れなくなってしまったんです。見たのは年末だったんですけど、発売は翌1月15日で『500 Sport』の姿と発売日が頭の中に強く残った状態で年を越しました」 古田さんに衝撃を与えた『500 Sport』のキャンペーンビジュアル。 その時点ではフィアットに対する先入観があったわけではなかったのですね。 「当時はまだブランドに対する特別な思いはまったくありませんでした。完全にインスピレーションですね。広告を見て、うわーっと鮮烈な衝撃が走ったんです。ただ、発売日を迎えてもまだ購入の決心がつかず、そこから1週間後にショールームに問い合わせたところ、その店舗にはすでに在庫がないと聞き、慌てて他のショールームに電話をかけまくりました」 古田さんは自分の直感やインスピレーションを大切するタイプなのですか? 「ずっと直感で動いてきましたね。論理的に物を考えるより、直感とそのときの感情を優先して生きてきました。もちろん一応考えはするんですけど、最初に感じたインスピレーションを優先するので余計に頭に残るんでしょうね」 現在『500C』と『Panda 4×4』を所有されている古田さん。 マニュアル車を選ばれたのは運転を楽しみたいという理由からですか? 「そうですね。あとは当時、マニュアル車がボケ防止にいいという話を聞いて、50歳を迎える前だったので、早めに予防に着手した方がいいだろうと考えたのです。それで次に乗るクルマはマニュアル車にしようとおぼろげに考えていたんです」 古田さんが所有していた『500 Sport』。 50歳手前でボケ予防というのは早すぎる気もしますが。 「仕事柄だと思うんですけど、会社の所属先が経営企画部だったんですよ。経営企画というのは会社の未来を作る部署。そうした仕事の影響もあり、自分の人生についても先を見通して行動するようになったんです。ボケ防止もその一環で、健康でいるために予防的にやっておいた方がいいと考えたんです」 『500 Sport』が第一印象に強く残った理由をご自身で分析すると何だと思いますか? 「圧倒的にデザイン、それと色使いですね。もともと紺色は好きでしたし『500 Sport』のイタリアブルーは明るめでイタリアらしさを感じたんです。かわいらしいこのクルマには派手な色が合うんじゃないかと思ったんです。その前向きな気持ちをさらに勢いづけたのが試乗です。試乗車はデュアロジックのツインエアー車だったのですがエンジンが面白くて。ポコポコ、ポコポコ音を出しながら結構よく走るのが印象的でした。それですぐに購入を決意したんです」 >>>次ページ 悪条件下で頼りになる新たな相棒
運転に苦手意識があり、7年間ペーパードライバーだったという武内さん。愛犬と出掛けたいという思いから一発奮起し『500』を購入。毎日ショッピングモールで駐車の練習を繰り返し、その姿を影から見守ったご主人のサポートもあり、苦手意識を完全に克服した摩利子さん。『500』を通じて変化を遂げた武内さんファミリーのフィアットライフをご紹介します。 駐車枠に入らなかった 『500』は奥さま用に買われたとのことですが、そのあたりの背景から教えてもらえますか。 摩利子さん(以下奥さま) 「最初は主人の大きなクルマしかなかったんですけれど、犬を連れて出掛ける時などに、もう1台取り回しのいい小さなクルマがあったらいいなと思って。私もクルマが欲しいなと思い始めたんです」 康次さん(以下ご主人) 「そのころは犬がまだ1匹しかいなかったので、大きいクルマで持て余していたんですけれど、その後犬が2匹に増えると、片方だけを動物病院に連れて行きたい時や、犬のストレス発散のために一人っ子状態でそれぞれ別々に世話をする日を作ってもいいかなと思うようになったんです。それでクルマが2台あった方がそれぞれ別々に行動できるので、使い勝手がいいんじゃない? と思って。それで『500』は以前より気になっていたので、好きな色が出たらぜひ購入したいと思うようになったんです」 武内さんの愛犬のクーパー君(右/5歳)とポム君(左/3歳)。 以前からフィアットが気になっていたのですね? 奥さま 「ルパン三世がキッカケでフィアットのことは以前から好きだったんです。色もルパンと同じ黄色が良かったのですが、欲しいと思った時には黄色の設定はなかったんですよ。水色にしようかと考えたこともあったんですけど、1年ぐらい待っていたら、ハッピーイエローの『500 ジアリッシマ』という限定車が登場したので、すぐにショールームに問い合わせました」 ご主人 「軽自動車を検討したこともあったのですが、私も彼女もデザインを職業にしていることもあって、やっぱり好きなものに乗りたいよね、という気持ちがありました。街ですれ違ったときに思わず目で追ってしまうような、そういうクルマが良かったんです」 武内さんの愛車『500 Giallissima(ジアリッシマ)』は2022年2月に発売された限定車。ハッピーイエローのボディカラーや、ブラックのミラーカバーが特徴。 奥さまは7年間ペーパードライバーだったとのことですが、久々にクルマに乗るのは怖くなかったですか? 奥さま 「もちろん怖かったです。以前に主人のクルマで運転に挑戦したことがあったのですが、ショッピングモールの屋上で試しに駐車したところ、駐車枠の白線を跨ぐようにど真ん中に停めていたんです。何度か練習してもそんな感じだったので、自分は運転に向いてないかもしれないと思って、運転から遠ざかっていたんです。フィアットを買ってからも、納車まで1度も運転しませんでした。だから納車日がいきなり久々の運転となってしまったんです」 ご主人 「納車の事務的な手続きが終わり、妻が運転席に乗った段階で、エンジンをかけるにはどうするんだっけ? みたいな状態でした。ディーラーの方が運転にまったく慣れていないことを察してくれ、手取り足取り教えてくれたんです。それでデリバリールームの扉が開いて“さあどうぞ”、となった時には僕も助手席でガチガチでした(笑)。妻に“大丈夫だよね? 後ろに下がったらガラスをバーンだよ”と言うぐらい、不安で仕方なかったです」 >>>次ページ ショッピングモールの屋上から徐々に下の階へ
綺麗な景色を見ながらかわいいお食事を 岐阜・加茂郡にあるフィアット好きが集う「マッシュルームカフェ」。ガラス張りの店内からは遠くまで広がる田園を見下ろすことができ、風が吹くと稲が波のように揺らぐ様子が眺められます。そんな景色を眺めるだけでもリラックスできますが、フィアットで訪れれば、さらに楽しい時間が過ごせるはず。明るいママさんとお話ししたり、他のフィアット乗りのお客さんがいれば、きっと自然と会話が広がるからです。 マッシュルームカフェの店内。田園風景が見渡せます。 マッシュルームカフェを営む前島美穂さんは、自分が「イイ!」と思うモノ・コトを大事にされている方で、その考えはお店のメニューや、その素材にまで生かされています。「ワンちゃんが好きだから」という理由からお店にはプチドッグランを併設し、店内にもエアコンを完備した「コハナレ」と呼ばれるワンちゃんOKの空間を用意しています。 マッシュルームカフェを営む前島美穂さん。 お料理に出すお皿は、北欧のものやアンティーク品など、インスタ映えするものを使用。「食べたお料理が思い出として残るように、かわいいプレートを使用するようにしています」と前島さん。そんな気遣いがお客さんの心を捉えているようです。 「自分が楽しいと思うことをやった方が仕事も楽しくなるし、お客さんも喜んでくれると思ってやっています。だからお皿は可愛い方が楽しいし、食材は自分が美味しいと感じる、地元の農家さんが作った野菜を使用しています。田舎なので農家さんからオレガノなどのハーブをいただけるので、それをお料理に使っています」と、その時々の旬の食材を提供しています。 そんな前島さんは、フィアット好きという一面も。子育て期に6人乗りの『ムルティプラ』を所有したのをキッカケにフィアットファンになり、現在は『500』に乗られています。2023年のフィアットピクニックに参加した際に、会場でフィアット乗りの仲間と出会い、その方からさらに友人を紹介してもらい……という具合に、フィアット仲間の輪が広がり、気づけばマッシュルームカフェは、たくさんのフィアット仲間が集まる場に。皆が集まると店内はワイワイガヤガヤと賑やかな雰囲気に包まれるそうです。 >>>次ページ フィアット好きに人気「カリオストロの城のミートボールパスタ」
ミントグリーンの『500(チンクエチェント)』がとてもお似合いの、おとぎの国から飛び出してきたような雰囲気の山崎愛菜さん。『500』の室内には随所にぬいぐるみやミニカーがいっぱい。カワイイものに囲まれて暮らすのが好きというのも頷けます。そんな山崎さんに『500』とのフィアットライフについてお話を伺いました。 自分のクルマが一番 高校の卒業とともに教習所に通い、運転免許証を取得したという山崎さん。当時、特にクルマ好きだったというわけではなく、周りのお友だちが皆通っていたからという理由で教習所に通いはじめたとのこと。そして、最初に購入したのはカワイイ系の軽自動車。社会人になってからはその軽自動車を通勤にも使っていました。そして街を走っていると、時折目に入るカワイイクルマが気になるようになったそうです。 『500』オーナーの山崎さん。 「あのクルマ、カワイイ!と思って調べてみると、それが『500』だとわかったんです。その頃はまだフィアットのことも知らず、街で見ていいなと思ったのが、出会いのキッカケでした。調べていくうちにボディカラーにミントグリーンがあることを知り、その色がまたストライクで、これ欲しい!という気持ちでいっぱいになりました」 グリーンがもともとお好きだったのですか? 「特にグリーンが好きだというわけではなかったのですが『500』とミントグリーンの組み合わせが自分の琴線に触れたのだと思います。でも調べたら既にその色の『500』は設定がなくなっていて、千葉の販売店にミントグリーンで気に入った仕様のクルマがあったので愛知から見に行きました。それで、そのまま購入に至ったんです」 欲しいと思っていたクルマが手に入って、どんな気分でしたか? 「もう、本当に嬉しかったです。どこから見てもカワイくて、自分のクルマが一番!と思っています(笑)。自分が本当に気に入って買ったクルマなので眺めているだけでも満足ですし、乗っても楽しいクルマですね」 購入して最初にしたことは何ですか? 「まずは洗車してキレイにして、その後フェンダーのところにイタリア国旗のバッジを付けました。ただ貼り付けるときに左右を逆に取り付けてしまったんです。やってしまった、と(笑)。でもキレイに剥がせないと思ったので、これも味だと思ってそのままにしてあります(笑)」 >>>次ページ 自分色に染める楽しみ
『500C(チンクエチェントシー)』と『Panda(パンダ)』の2台のフィアットを所有され、ミニチュアシュナウザーの愛犬ロンくんと一緒に待ち合わせ場所にお越しくださった田中さんファミリー。個性の異なる2台をそれぞれ大切にし、「ずっと手放したくない」と愛情を語ってくれました。ご夫婦でそれぞれマイカーを持つことで新たな境地を切り開いた、そんな田中さんファミリーのフィアットライフをご紹介。 家族で乗るには“近い”方がいい 『500(チンクエチェント)』はいつ頃から乗っていらっしゃるのですか? 彰さん(ご主人) 「2014年8月に購入したので、もうすぐ10年になります。購入したきっかけは、その前に乗っていたクルマの故障修理費が高額だったので買い替えを検討したんです。当時、国産のハイブリッドカーなども選択肢にあったのですが、僕は子どもの頃から『ルパン三世』が好きで、チンクエチェントのことがずっと頭にあったんです。『ルパン三世』に出ていたチンクエチェントが新しく生まれ変わっていたことは知っていたので1度見に行こうと、妻と長女と3人でショールームに見に行ったんです。そしたらもう、思いのほか惚れ込んでしまいまして(笑)。ちょうど限定車が出たタイミングで、しかも『ルパン三世』に出ていたヌオーヴァ500と同じ黄色だったので、すぐに購入を決めたんです」 富子さん(奥さま) 「主人はその時、“欲しい、欲しい”とそればかり言っていました(笑)」 『500C』オーナーの田中彰さん。 『500C』に乗った印象はどうでしたか? 彰さん 「楽しかったですねぇ。排気量が1000ccにも満たないツインエアエンジンってどうなんだろう? と最初は思っていたのですが、思いのほか元気よく走ってくれたのが驚きでした。ゆったり走っている時はドコ、ドコ、ドコとエンジンの鼓動が感じられ、高速道路で一定の速度に達すると、スーッと静かになるんですよね。それがまた快適だしかわいいんです(笑)」 購入当初から奥さまも運転されていたのですか? 富子さん 「乗っていました。ただ『500C』は見ている分にはすごくかわいいし、運転も楽ではあったんですけど、個人的にはもう少し広さが欲しかったんです。買い物や子どもの送迎に使うことを考えると、5ドアがいいなという気持ちがあったので、私は『Panda』がいいなと思っていたんですよ(笑)」 富子さんの愛車の『Panda』。 田中家は、お嬢さん2人と、長男がいらっしゃる5人家族。現在高校2年生の長男は野球に励まれていて、甲子園を目指して頑張っているそうです。小学校の頃から週末は野球三昧という日が続き、ご主人と奥さまも毎週末のように野球場に通っているそうです。 彰さん 「息子の野球で子ども達と遠征をすることも多かったので、『500C』とは別に国産の3列シートのミニバンに乗っていたんです。ミニバンは確かに広くて便利なんですが、仕事でお客さんとの打ち合わせに行く時には『500C』を使用していました。仕事では脚立をよく運ぶのですが、折り畳み式の脚立を小さな『500C』に詰め込んで出掛けています」 自営業を営まれている田中さんはお仕事にも『500C』を愛用されているそうです。 大きなクルマがあってもあえてチンクエチェントを選んで出掛けられていたのですか? 彰さん 「長い脚立が必要な時はミニバンで行くこともありましたけど、移動が楽しくないんですよね。ただ目的地に行くだけという感じがして。『500C』だと、自分が好きだからというのもあるんでしょうけど、何でもない移動でも乗っているだけで気持ちが充実するというか、楽しく感じられるんです」 仕事の時は『500C』、家族で出掛ける時はミニバンという具合に使い分けていらしたのですか? 彰さん 「いや、家族で移動する時も『500C』の出番が多かったです。ミニバンは広くて便利ではあるんですけど運転するのは僕じゃないですか。子どもも妻もみんな後席に座ってしまうので、運転していて楽しくないんですよ。それが苦痛で。結局ミニバンは手放してしまいました」 小さなクルマの方が楽しいですか? 彰さん 「小さいと家族で乗る時に一体感があるんです。長女が就職で東京に行くとなった時も、東京まで妻と娘と3人で『500C』で物件探しに行ったんです。その時の一体感たるものや凄かったですよ(笑)。もうみんな息がかかるぐらい近くに居て」 >>>次ページ ちょうど良さとさりげな
2023年の10月で生産終了となったTwinAir(ツインエア)エンジンを特集。ツインエア エンジンが生まれた背景や歴史、どのような特徴があって、どのようにフィアットファンから愛されてきたかについて自動車ライター嶋田智之さんに綴っていただきました。 インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー受賞のツインエア いずれそのときが来るだろうと、うっすら考えてはいました。カーボンニュートラルが最優先事項として語られるようになり、自動車の電動化が着々と進んでいく時代になれば、いずれ多くの内燃エンジンが表舞台から姿を消していく。ある意味それは既定路線のような出来事。だから、驚きはありません。ただ、ちょっとばかり寂しいな、と感じます。 何のことか。「名機ツインエア エンジンが2023年の10月末をもって生産終了となってしまった」というお話です。 母体となるStellantisの方針に則って、すでにフィアット・ブランドも電動化へと大きく舵を切っています。おかげで『500e』という素晴らしいバッテリーEVが誕生し、新たな笑顔を生み出しています。それはとても素敵な出来事。 けれどその一方で、はっきりとしたユニークなキャラクターとほかに似たものがないフィーリングで12年間にわたって僕たちをニコニコ顔にさせてくれたツインエア エンジンがこれからは手に入らなくなるという現実には、抗うことのできない時代の流れとはいえ、センチメンタルな気持ちにさせられますね。 ツインエア エンジンが最初にお披露目されたのは、2007年のフランクフルト・モーターショー(ドイツ国際モーターショー)でした。『Panda(パンダ)』をベースにした環境配慮型のコンセプトカー『Panda Aria(パンダ アリア)』のパワーユニットとして搭載されていたのです。徐々に主流になりはじめていたダウンサイジング・コンセプトを大きく突き詰めた排気量が1ℓを下回る直列2気筒という考え方は、玄人筋には衝撃を与えましたが、搭載車両がコンセプトカーだったこともあって、世のクルマ好きには今ひとつ注目されませんでした。 僕たち普通のクルマ好きが“ツインエア”という存在から衝撃を受けたのは、それから2年半後の2010年のこと。ジュネーヴ・モーターショーで量産型が発表されたばかりか、その直列2気筒は『500』に搭載され展示されていたのです。先祖にあたる稀代の名車『Nuova 500(ヌォーヴァ チンクエチェント)』をストレートに連想させるモデルの誕生が、多くのフィアットファンを喜ばせたことはいうまでもありません。 ツインエア エンジンにはいくつか仕様がありますし、フィアットのみならず後にランチアにもアルファ ロメオにも採用されましたが、日本にもたらされたのはボア×ストロークがφ80.5×86.0mmの875ccインタークーラー付ターボで『500』『500C』『Panda』に搭載されました。 このパワーユニットには、当時のFGA(現Stellantis)のパワートレイン開発を一手に担っていたフィアット・パワートレイン・テクノロジーズ社が長い時間と莫大な予算を投じて作り上げた、『マルチエア』と呼ばれる油圧式吸気バルブ開閉機構が備わっています。それが排気量や気筒数と並ぶ、もうひとつの特徴。少し小難しい話に感じられるかもしれませんが、マルチエアは一般的な内燃エンジンと異なって吸気側のカムシャフトを持たず、代わりに電子制御された油圧ピストンが吸気側のバルブの動きを司っています。吸気バルブの開閉量やリフト量を緻密かつ自在にコントロールしていくことで、低回転域でのトルク不足、出力不足、燃費の悪化といった、小排気量化に伴うデメリットを解消しようという仕組みです。 結果、得られた最高出力は85ps/5,500rpm、最大トルクは145Nm/1,900rpm。燃費はWLTCモードで19.2km/L(『500』の場合)。排気量や気筒数を考えれば、なかなか優れた数値といえるでしょう。そうしたデータだけが評価されたわけではありませんが、デビュー翌年のインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーにおいて、1ℓ未満のベスト・エンジン、ベスト・ニュー・エンジン、ベスト・グリーン・エンジン、そして最高賞であるインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー2011を獲得し、「積極的なダウンサイジングが臆病なパフォーマンスを意味するものではないことを証明している」「驚くべきパフォーマンス。ツインエアは、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー・アワードの歴史にその名を刻んだ」「史上最高のエンジンのひとつ」と極めて高い評価を得たほどでした。 次のページ:【有機的な味わいのあるエンジン】
10月28日(土)に『FIAT PICNIC 2023』が開催され、静岡県のボートレース浜名湖に全国各地からフィアットとアバルトが集結しました。今回で14回目となる『FIAT PICNIC』は、900台以上のフィアット・アバルト、そして約2,000名を超えるフィアットオーナーをはじめ、フィアットファンやお友達が参加。会場内に設置されたさまざまなエリアやステージの模様から、参加者インタビューまで自動車ライターの嶋田智之さんにレポートしていただきました。 快晴のボートレース浜名湖で『FIAT PICNIC 2023』がスタート! 10月28日、快晴の土曜日の朝7時半。静岡県湖西市のボートレース浜名湖対岸駐車場に僕たち取材チームが到着したときには、すでに色とりどりのフィアットが集まって整列しはじめていました。そこに到着するまでのロードサイドにあるコンビニエンスストアの駐車場でも、目につくのはフィアットばかり。対岸駐車場のまわりの道もフィアット、フィアット、そしてフィアット。イベントのスタートまで2時間半もあるというのに、その勢いです。 『FIAT PICNIC 2023』の開催日。世界最大級といっても過言ではない年に一度のフィアットのお祭りを、フィアット乗りたちがどれだけ楽しみにしていたかが伝わってきます。 続々と会場に入ってくる『NUOVA 500』『500』『500C』『500e』『500X』『Panda』『Doblò』といったフィアットたち、そしてアバルトたち……。年に何度かしか会えない遠方の仲間や日頃はSNSで親しく交流しているフィアット仲間たちの輪がたちまちあちこちに生まれ、見ているこちらも嬉しくなるほどの笑顔の花が次々と咲きはじめます。今回は毎年恒例となっているこのイベントの当日の様子を、お伝えしていきたいと思います。ただし、コンテンツがたっぷり過ぎるくらい用意されているイベントなので、駆け足での紹介になってしまうことをご了承くださいね。 午前10時になると、会場の最も奥にあるメインステージが一気に賑やかになりました。オープニングセレモニーのはじまりです。カウントダウンに続いて、ジャズ・サックス・カルテットバンドのサキソフォビアによるオープニングライブ。ホーンによる独特のアンサンブルが会場の気分を一気に高めてくれます。そして昨年に引き続きMCをつとめるお笑い芸人・レギュラーの思わずクスリとさせられてしまう軽妙なトークとともに本格的にイベントがスタート。途中から女性の声が加わったと思ったら、Stellantisジャパン株式会社のフィアットブランドマネージャー、熊崎陽子さんです。レギュラーのおふたりに負けていないよく通る声と明るく軽快なトークに、ステージ前に陣取ったフィアット乗りたちは思わず笑顔に。 ▲サキソフォビア ▲レギュラーとフィアットブランドマネージャー 熊崎陽子氏 続いて、Stellantisジャパン株式会社の打越晋社長のご挨拶。打越社長は昨年の11月に就任されたので、このイベントには初めての参加です。 打越社長「FIAT PICNICは、ステランティスのイタリア3ブランドの中でも最も大切なイベントのひとつ。こういう素敵な場所に来ることができて、本当に本当に嬉しく思っています。みなさん、ご参加くださって、本当にありがとうございます。14回目となる今回は900台以上にご来場いただきまして、おそらく約2,000名を超えるお客様にご参加いただいています。今回は“友達といっしょ”ということをテーマに、我々のスタッフが一生懸命考えてみなさんといっしょに楽しんでいけるように頑張って、いろいろな催しを準備してきました。フィアットを愛してくださっているみなさまに、よりフィアットを、よりイタリアブランドを愛していただきたいという想いで、ステランティスのスタッフ一同で最大限サポートさせていただきます。今日の1日をたっぷり楽しんでいただければと思います」 挨拶の最後には、「スタッフは準備をがんばってきたけど私は何もがんばってこなかったので、社長特別賞を用意することにします」と、ユーザーのお好みに合わせてカスタマイズできる15万円相当のオーダーメイドジャーニーが贈られるSNSイベントについてのお知らせが。その次の瞬間にスマートフォンをポケットから出す人の姿の何と多かったことか。 そして、ステージを中心に参加者全員での記念写真を撮影した後は、ステージと会場に点在する各コーナーで、さまざまな催しが繰り広げられることになりました。 オープニングセレモニーに続くステージイベントは、『Tasty FIAT!×ファビオ飯 トークショー』。“ファビオ飯”のファビオさんはご存知のとおり、フィアットの公式アンバサダーであり、ご自身のYouTubeチャンネルでは登録者数50万人以上を集める人気のシェフです。イタリア車好きは十中八九、イタリア料理好き。YouTubeや著作を通じてイタリア料理の作り方をわかりやすく教えてくださるシェフの登壇とあって、会場にいたフィアット乗りたちが大注目していた様子は強く記憶に残りました。イタリアと言えば“クルマ”と“食”ですからね。気持ちはよくわかります。 ▲ファビオさん 続いて『デコレーションコンテスト』の紹介。こちらは自分の“相棒フィアット”を思い思いにデコレーションした8台がステージの両翼に並べられ、会場にいる人たちによるSNSからの投票で最優秀賞が決まるというもの。そのエントリー車両が1台ずつ紹介されていきます。 少し休憩をはさんで、『FIAT川柳入賞作品発表&表彰式』。“女性の活躍”をテーマにした川柳を事前に募集し、このステージで優秀作品にStellantisジャパンのマーケティングダイレクター、ジェイミー・アンさんから賞品が手渡されました。今年は“羽曳野のルパン三世さん”の「フィアットが 似合う女と 自画自賛」が最優秀賞です。 ▲マーケティングダイレクター ジェイミー・アン氏
クルマ好きのお客さんのガレージハウスを設計するなど、建築士として活躍している近藤光一(こんどう・こういち)さん。普段乗りできる楽しいクルマとして『500C TwinAir(チンクエチェントシー ツインエア)』を購入された近藤さんに、フィアットを選ばれた理由、そして『500』の魅力について自動車ライター・嶋田智之さんがお話を伺いました。 『NUOVA 500』と同じオープントップ 今回登場していただく近藤光一さんは、ガレージハウスやビルトインガレージ住宅、店舗などを手掛ける建築士さん。趣味のフランス製クーペとハッチバック、イタリア製オープンスポーツカー、普段使いの日本製SUVと奥さま用のフランス製MPV、そして普段乗りもできる趣味のクルマとして2022年に『500C TwinAir(チンクエチェントシー ツインエア)』を増車したエンスージャストでもあります。 「僕は趣味のクルマの世界にはフランス車の方から入ってきているんです」とおっしゃる近藤さんが『500』のどんなところに惚れ込んでいるのか、お話を伺いました。 ▲近藤光一さん フランス車の世界から入った、とはどういう流れなんですか? 「最初のうちは日本車を2、3台乗り継いでいたんですけど、途中で何か虚しくなっちゃったんですね。だけど、たまたまうちの近所でフランス車のハッチバックを試乗したら、よく走るし乗り心地もいいし安い。そこからフランス車の世界に入ったんです。日本車を乗り継いでいたときには足はガチガチが偉い、街の中では信号での出だしが速ければいいみたいに、クルマの価値観が凝り固まっていた部分があったんですけど、そのクルマに乗ってからはどうでもよくなっちゃいました。すべての方程式をそこから組み直した感じです」 『500』との出逢いは? ▲近藤さんご自宅のガレージと『500C』 「実は、プロトタイプの『トレピウーノ』を見て興奮したタイプなんです(笑)。2004年に発表されたのを知って、早く出ろ、早く出ろ、って。デザインに惹かれて、欲しいと思ったんですね。僕はフランス車が好きな一方で、昔からクラシックなイタリア車に趣味で乗っていて、それが今持っているオープンカーなんです。イタリアやイタリアの文化、イタリアのクルマも大好きなんですよ。それで2007年の新型『500』デビューのタイミングに合わせてチンクエチェント博物館がイタリアツアーを企画してくれたので、僕も参加して『500』のインターナショナルミーティングにも行きました。実はそのとき、僕は新型『500』を買うつもりで行ってるんですよ。おつきあいさせていただいている博物館の伊藤精朗代表が誘ってくれたから、みんなで買いに行きましょう!って(笑)。そう言ったくせに、結局、15年間買わなくて……」 何か理由があったんですか? 「発表されたのは2007年でしたけど、クルマは2008年まで入ってこなかったじゃないですか。その間にいろんなクルマの誘惑があって、手元のクルマが増えちゃったんです。もうこれ以上は増やせないし、でもずっと気になっているし、っていう状態で15年が経っちゃったんですね」 15年の沈黙を破って『500』を購入することになった、そのきっかけは? 「コロナ渦と世界情勢の影響、ですね。ちょうど1年前の初夏、それらが原因で部品が入ってこなくなっちゃったんですよ。奥さんのクルマと古いオープンカー以外、あれもこもれもぜんぶ動かせなくなっちゃったんです。だから仕方なくエアコンもパワーステアリングもない、古いオープンカーを足に使っていたんですよ。真夏に(笑)。打ち合わせで現場にも行きたいしお客さんのところも行きたいんだけど、汗染みだらけの変な人が来たって思われたら嫌だなって考えていたら、友達がチンクエチェントのレンタカーがあることを教えてくれて、借りることにしたんです。そこで気がついたんですよ。僕は15年間、このクルマを買ってなかったって。結局3ヶ月借りて、秋に自分の『500C』を買いました。ツインエアにするか1.2ℓにするか迷いましたけどね」 『500C』を選んだのはなぜでしょう? 「最初の『NUOVA 500(ヌォーヴァ チンクエチェント)』のトップって、お尻の方まで開くんですよね。あのデザインこそが『500』だと思っていたんです。だから2009年の春先に『500C』が追加されたとき、それをモチーフにデザインしてくれたことが嬉しくて。ルーフの上の部分だけじゃなくてお尻の方までトップが降りてくる。これだよこれ!と思って、最初から『500C』を買うつもりでした」 ツインエアを選んだのは? 「1.2ℓの『500』のレンタカーに乗っているときに、高速道路の長い登り坂で個人的にトルク不足を感じたんです。僕なんかはデュアロジックでギアを落としてエンジンの回転を上げてしのぎますけど、奥さんは苦手みたい。それでショールームに行ってツインエアを試乗させてもらったら、やっぱり元気だなって感じたんです。トルクがありますよね。これなら大丈夫って確信しました。実際、僕の家のまわりも坂道が多いんですけど、力強さには不満はありませんよ」 次のページ:【一家に1台『500C』だな、って思う】
フィアットに心惹かれてから、1年間ほど“フィアットファン”として過ごしていたという波多野(はたの)あゆみさん。その後、『500』を購入にいたった経緯やどんなところに魅力を感じているかについて自動車ライター・嶋田智之さんがお話を伺いました。 少しずつ少しずつ“好き”が膨らんでいきました 「私、もともとはまったくクルマに興味がなかったんです。免許は取っていて、仕事に行くために必要だからクルマを買うことになったときも、安いし安全そうだからこれでいいか、っていう感じで何も考えずに決めていました。なのに、『500(チンクエチェント)』に出逢ってからガラッと変わっちゃいましたね(笑)」 そう笑うのは、波多野あゆみさん。数年前まではクルマに興味がなかったというのに、現在では6年前から愛車となっているカントリーポリタンイエローの『500』にずっと心を奪われ、クルマのことも大好きになった模様。いったいなぜそうなったのか、お話を伺ってみました。 あゆみさんは昨年の7月に結婚されたとのことですが、転機はのちの旦那さんの家に遊びに行ったときに訪れました。今から7年ほど前のことでした。 「彼の家でフィアットからのDMを見て、このオニギリみたいな形をしたかわいいクルマは何だろう?って思ったのがきっかけでした。ちょうど『500』がマイナーチェンジをして新しい顔になったよっていうお知らせで、ポップコーンをイメージした白の『500』がデザインされているDMでした。そこで気がついたんです。駐車場で彼のクルマの隣りにいつも停まっているクルマ、フィアットでしょ!って(笑)。それまでクルマに興味がなかったから、まったく気にしてなかったんですね。調べてみるとチャチャチャアズールカラーの『500』であることが分かって、それからすごく『500』を意識するようになって……」 ▲波多野あゆみさん そこで『500』いいな、って思っちゃったんですね? 「そうですね。お隣のチャチャチャアズールがすごくよかったんです。デザインと色と雰囲気の完璧なクルマがたまたま近所にいて、ハマってしまいました。私はもともとオタク気質があって(笑)。ハマったら自分がどうなるか知っていたので……」 ハマるとどうなるんですか? 「『500』が出ている雑誌や新聞を見つけたら全部買って、ちょっとでも載っているところがあったら切ってノートに貼って。ほんとハマるとやばいですよね(笑)。これはもし自分がフィアットに乗ったら大変なことになると思って、推しのことは“かわいい”“かわいい”って楽しむだけにしよう、それですませておこう、って思っていたんです。それはそれで楽しかった。1年くらいずっとファンしていて、その当時は今ほど『500』が周りで走っていなくて、出会うのがちょっと珍しい感じだったので、出かけたときにすれ違うたび彼と大騒ぎしていました」 なるほど。最初のうちは“かわいいな”と思っても、自分で乗ろうとは思ってなかったわけですね。なのに、なぜ購入する方向に……? 「少しずつ少しずつ“好き”が膨らんでしまって。私、下調べをいっぱいしていたんですよ。実際に乗っている人のブログとかを見たりして、壊れないかとか、どういう仕様なのかとか、ちゃんと走るのかとか。かわいいだけじゃやっていけないから、ちゃんとクルマとして安心して乗れるのかとか。そうしているうちに“キュン”ってする気持ちがどんどん大きくなって、いつからか自分が乗りたいって思うようになっちゃったんです。好きすぎて『500』の絵を練習しはじめたりとか。乗るからには描けなきゃ、って(笑)」 ハマったらどうなるか、の一端がわかった気がします(笑)。購入されるときはどう踏ん切りをつけていったんですか? 「買いたいという気持ちが出てきた頃からフィアット貯金をはじめました。働きはじめてまだ少しだったから貯金が少なくて、1年ぐらいして頭金が貯まった頃に勇気を出してショールームに行きました。最初はチャチャチャアズールが欲しかったんですけど、ぜんぜんなくて、だけどもう乗りたい気持ちが膨らんじゃっているから、1ヶ月もたたないうちに今のカントリーポリタンイエローの『500』に決めちゃいました。全般的に黄色のものは好きだったので」 ▲カントリーポリタンイエローカラーの『500』 最初に『500』を意識した瞬間からたった1年で、激変しましたね(笑)。購入するときに試乗もしたと思うんですけど、最初に『500』に乗ったときにはどんなふうに感じました? 「それまで普通のクルマにしか触れてこなかったので、最初はちょっと癖があってビックリしました。デュアロジックは初めてだったので。でも運転していて慣れていく感じがしたから、ちっとも嫌じゃなかったです。というか、何より乗っている時間が本当に楽しかった。ついに運転しちゃった!って緊張で手が震えちゃって。試乗のときには彼が後ろに乗っていたんですけど、そのときの様子を写真で撮られてました(笑)。彼も『乗った方がいいよ、そんなに好きなんだったら買った方がいいよ』って、押し押しでした。憧れていたクルマ、すれ違うたびに私を笑顔にさせてくれたクルマが、とうとう自分のものになるんだ、好きすぎるこの推しに私が乗ることになるんだ、って本当に嬉しい気持ちになりましたね」 次のページ:【お気に入りのカフェのドアを開けた瞬間の気持ち】