毎年10月11日は国連が定めた「国際ガールズ・デー」。この日にちなんで女の子の権利やエンパワーメントを広く知ってもらうためのイベントやアクションが世界各地で行われます。女性に人気のイタリアのカーブランド「FIAT」(フィアット) と公益財団法人ジョイセフは、女性のエンパワーメントについて分かりやすく学ぶことができるデジタルマンガを制作、公開しました。「FIAT」を展開するFCAジャパン・マーケティング本部長のティツィアナ・アランプレセさん、ジョイセフの市民社会連携グループ長の小野美智代さん、マンガを描いたイラストレーターの伊吹春香さんの3人が女性のエンパワーメントについて語り合いました。
小野 女性が「自分の人生を自分で決める」ことが、私たちジョイセフが行っている「I LADY.」(アイレディ、注1)のコンセプトです。今回のデジタルマンガの制作プロジェクトでは、女性が自らの意思で人生を選択することの大切さを伝えるとともに、日本ではバッシングされがちな性教育についても抵抗なく学んでほしいという思いを込めました。
ティツィアナ このプロジェクトは、1年前の伊吹さんとの出会いから始まりました。フィアットが進めている「#ciaoDonna」 (チャオ・ドンナ、注2)のプロジェクトで、女性の性についてもっと丁寧に伝えていきたいと考えていました。ちょうどそのころ、伊吹さんのイラストをインスタグラムで見てとても格好いいと思い、マンガ制作をお願いしました。マンガをみんなの共通言語として、女性同士のつながりができるようにしたいです。
小野 こうしたテーマについて、文字では読みたくないと思う人もマンガにはすっと吸い込まれて気が付いたら読み終えています。言葉よりも絵の方が、共感を得られる場合も多いですね。マンガを通して、すべての女性が、自分の意思で自分の人生を切り開き、心から笑顔で過ごしていけるよう、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(性と生殖に関する健康と権利)についても理解が深まっていけばと思っています。
伊吹 鳥取で主にレトロな雰囲気の女の子のイラストを描いています。鳥取のメーカーで、独自のフィアット専用シフトノブを製作されている会社の方から、「フィアットのイメージに合う」と依頼を受けて、“フィアットと女の子”という組み合わせの絵を描いていました。それが今回のプロジェクトへとつながりました。「女性のエンパワーメント」という言葉は、まだ広くは浸透していませんが、マンガだとその言葉を知らなくても、知ってほしい内容が伝わるなあと感じました。
ティツィアナ 実は伊吹さんもこのプロジェクトでマンガを描く中で、エンパワーメントを考えるご自身の旅が始まったそうですね。
伊吹 私自身も、女性のエンパワーメントについて問題意識を持つようになりました。これまでの自分であれば、望まない妊娠をしてしまった人は、「性に対して知らないことが悪いのでは」という考えがどこかにありました。このプロジェクトでストーリーを一緒に考える中で、「知らないことが悪いことではない」「知らない人たちをサポートしていく気持ちを持っていかなければならない」と思えるようになりました。自分自身も描きながら、強くなりました。
小野 ティツィアナさんが「日本の性教育の状況をなんとかしたい」と、海外の性教育について教えてくださいましたね。
ティツィアナ 女性は一緒になるといろいろなことを話すことができますが、日本では、性、セクシュアリティについて話題にすることは、少しタブーだったり恥ずかしさもあったりしてなかなかオープンに話すことができません。私たちは、もっとオープンに自分のセクシュアリティについて話した方がいいと思っています。また、海外の性教育と比べると日本の性教育は十分とは言えません。望まない妊娠をするなど自分の人生の選択を自分で決められなくなってしまう心配もあります。
小野 こうした意味で今回のマンガのストーリーは、みなさんがきっと、自分自身の問題として読んでくださると思います。伊吹さんが描いた4つのストーリーでは、それぞれ年齢の違う4人の女性が登場します。
伊吹 第一話の主人公は17歳の女子高生です。保健室の先生と女子高生の会話がメーンです。キーワードは「知ること」です。望まない妊娠を防ぐためにも17歳には、避妊の常識として知ってほしい内容をお伝えしています。第二話の主人公は21歳です。自分に自信が持てないため、付き合っている男性に嫌われたくないという思いから、何でも彼の言うことに合わせてしまいます。彼から「避妊をしたくない」と言われても合わせてしまいます。キーワードは「自信」です。
ティツィアナ 今の時代、女性は自由で強くなるべきなのに、付き合っている相手との関係ではすごく弱くなっています。仕事でもボスに対してなどで同じようなケースが見られます。このように女性が弱くなってしまう点を補うにはどうずればいいかをきちんと考えるべきだと思います。
小野 この21歳の女性のストーリーはステレオタイプによる男女の恋愛観がテーマです。ぜひ男性にも読んでもらいたいです。男性も一緒に行動を変えていかないと世の中は変わらないです。
伊吹 第三話の主人公は28歳のキャリアウーマンです。キーワードは「戦う」です。仕事での上昇志向は強いものの、30歳を目前に結婚などについて周囲からのプレッシャーがあることを感じています。私も30歳近くになってアラサーと呼ばれた時、女性としての期限があるような気にさせられた経験があります。
小野 最後の第四話は、男女のパートナーシップ、夫婦関係について考えさせられます。
伊吹 主人公は35歳の主婦です。この家庭は、夫婦のコミュニケーションがうまくいっていないケースです。男性も子育てや家事のことを当たり前にするという世の中の常識ができていたら生まれていない「すれ違い」を描きました。
ティツィアナ ここでは夫婦が素直になって思っていることを言える環境、話し合い、理解し合うことが大事ということも伝え、結末はとてもポジティブな内容になっています。しかし、実際の社会では毎日、世界のどこかで自分のパートナーに殺されるなどの被害に遭っている女性がいます。こうした被害をなくすためにも、女性のエンパワーメントを考えることがとても大切です。
伊吹 今回、マンガでは4人の主人公のストーリーを通して、女性のエンパワーメントについてわかりやすく、楽しくまとめましたので、ぜひたくさんの方に楽しんで読んでいただきたいです。
ティツィアナ このマンガを男女のカップルにも読んでもらいたいですね。これからも、伊吹さんと一緒に新たな違うストーリーも作っていきたいです。また、フィアットの哲学として、「I LADY.」の素晴らしい活動も応援し、シェアしていきます。
小野 まさにシェアしたい素敵なデジタルマンガができました。マンガを通じて、性、ジェンダー、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」について、自分自身の考えや行動を見直す機会ができると思います。マンガはフィアットの「 #ciaoDonna 」(チャオ・ドンナ)のサイトで公開しています。ぜひ、読んでシェアしてください。
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第一弾17歳かなの物語は10月30日(金)に公開。その他のストーリーは随時公開予定。
注1 I LADY.
I LADY.は、国際協力NGO「ジョイセフ」が、2016年より日本で展開するSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の意識向上により得られる『ライフスキル』を伝えるプロジェクトです。一人ひとりが自分の性や身体と向き合い、自分らしい選択ができるようにと喚起し、まずは日本から「I LADY.な生き方」を広げ、世界中の女性のエンパワーメントを目指しています。
注2 #ciaoDonna
フィアットは2018年春からすべての女性にエールを送るプロジェクト「#ciaoDonna(チャオ・ドンナ)」を進めている。イタリアでは親しい間柄で使われるあいさつの言葉「ciao」。そして女性という意味の「Donna」。この二つの言葉を組み合わせたメッセージは、年齢に関係なく、女性の活躍や飛躍、健康や楽しい暮らしなど、より楽しく充実した暮らしや未来をつくるために、女性のエンパワーメントを推進する活動を意味する。また、2011年から「Share with FIAT(シェア ウィズ フィアット)」を合言葉に、素晴らしい社会活動をしているさまざまな団体とコラボレーションをしながら、女性のエンパワーメントや子供たちの人権保護、動物愛護などの団体のサポートをしている。
ティツィアナ・アランプレンセ
FCAジャパン・マーケティング本部長
イタリア・ナポリ東洋大学で日本政治文化経済学を学んだのち、奨学生として来日し、九州大学大学院を卒業。卒業後はイタリアに帰国し、日本の自動車メーカーの現地法人で勤務。1992年にフィアット グループ オートモービルズS.p.A(当時)に入社。2005年には同日本法人フィアット グループ オートモービルズ ジャパン(当時)のマーケティングディレクターとして再来日。現在はアルファロメオ、フィアット、ジープ、アバルトの4つのブランドを国内で展開するFCAジャパンのマーケティング本部長。#ciaoDonnaプロジェクトの仕掛け人でもある。
伊吹 春香(いぶき・はるか)
イラストレーター
鳥取県出身・在住。東京の短大卒業後、鳥取に戻り広告代理店でデザイナーとして勤務。2019年4月からイラストレーターとして独立。広告やショップカード、パッケージデザイン等を多く手掛ける。レトロな雰囲気を基調にしたイラストを描く。花という意味のイタリア語「Fiore」の名を冠した限定車、500 Super Pop Fiore(チンクエチェント スーパー ポップ フィオーレ)のイラストも制作。
小野 美智代(おの・みちよ)
ジョイセフ市民社会連携グループ長
ジョイセフ(公益財団法人)市民社会連携グループ長。SDGsの幕開けとともに、国際協力NGOだからこその視点で、日本のジェンダーやセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの課題を捉えて一人ひとりの意識向上やアクションのきっかけとなる情報発信と機会創出を行う「I LADY.」をスタート。世界中すべての女性が健康で、自分の人生を自分で選択できる社会を目指して、FCAをはじめとする多くのパートナー企業と連携し事業を実施している。1974年静岡県生まれ、在住。
OTEKOMACHI 2020年11月2日 記事より転載
https://otekomachi.yomiuri.co.jp/s-post/20201102-OKT8T244208/
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