I LADY.は、女性が心身ともに“健康”に生きられる社会を目指す、ジョイセフによるプロジェクト。健康といっても色々な健康があるけれど、I LADY.が活動の中心としているのは、性と生殖に関する健康。日本は医学が進んでいる先進国ではあるけれど、「性」の問題についていえば、それを取り巻く社会環境や人々の意識には、“遅れている?”と感じる部分も。その背景には、性はデリケートな問題なのでメディアで取り上げられることが少なく、社会の関心が向きづらい事情もあるのでしょう。そこで女性のいのちと健康を守ることを掲げている国際協力NGOのジョイセフが立ち上がり、I LADY.という活動を通じて、性や生殖面における女性の健康や権利にフォーカスしているというわけです。今回はそのI LADY.をけん引するジョイセフの小野美智代さんに、お話をうかがいます。
公益財団法人ジョイセフ 市民社会連携グループ グループ長を務めていらっしゃる小野美智代さん。女性が輝ける社会を目指してさまざまな分野で活躍。今回はI LADY.の活動についてお聞きします。
「中絶というと若い子たちという印象が強いと思います。わたしも6年ほど前に臨床の現場で人工妊娠中絶を施す産婦人科医からこの話を聞いたときは驚きました。40代というと不妊治療の話は聞きますが、中絶の報道はあまりされていませんね。中絶の理由を聞くと、わたしはてっきり婚外交渉とかかと思ったら、実際には多くが夫の子。たとえば長男長女が大学生になっていて、もう恥ずかしくて産めないとか、世間体があるとか、経済的な理由、子どもが20歳まで現役で働いて養う自信がない……など。産めないならなぜ避妊しなかったのか?と聞くと、夫がしてくれなかったという答えが返って来ることが多いようです。もちろん、妊娠は女性と男性の両方に起因するものだけれど、女性は自分のことなのに人任せにしてしまう。I LADY.ではこうした問題に着目し、自分の体のことは自分で守るという判断や行動を広めようという活動を行なっています。こうした概念を表したセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR=性と生殖に関する健康と権利)という言葉がありますが、I LADY.の活動の軸はまさにこれにあたります。わたしたちは、Love Yourself(=自分を大切にすること)。Act Yourself(=自分から行動すること)。Decide Yourself(=自分らしい人生を、自分で決められること)。というキーメッセージを発信し、これを実践できる人を増やしたいと思っています。SRHRの知識や意識を持つことは、自分の人生をよりよく生きる力になるライフスキルだと思っていまして、その普及を目指しています」。
「日本では、世間の空気に流されることや、自分を出さないことやNOと言わないことが美徳とされているところがあると思います。遠慮という言葉もあります。それ自体を否定はしませんが、時には自分の権利を主張して、流されないようにすることも必要だと思います。まずは気持ちの上で、自分自身を大事にするという意識を大切にしていただきたいですね」。
「自分の人生は自分で決める。そういう生き方をしている人を、わたしたちは“I LADY.に生きている”、”I LADY.な人”と呼んでいますが、いまI LADY.に生きるアクティビストは、著名人を含めて155人位います。自分なりの人生を実践している人が100人いるとすれば、その生き方は100通りあるということです。若者たちの自殺が多い日本。先進国で若者の自殺が多い国は珍しいのに、わが国では大人になりたくない若者が年々増えている。そうした時代だからこそ、わたしたちが理想とするのは、I LADY.に生きる人たちが溢れる社会。自分のライフスキルが備わった人たちが増えていくことが理想だと思います。自らの生き方を自分で決め、イキイキとしている方が増えれば、そこに触発されて、自分らしさ=自分の個性に向き合う人が増えていく。他人とは違う自分のことを肯定できるようになって、自己肯定感が高まれば、自然と元気になって生きることが楽しくなる。他者の個性を認め、尊重することが当たり前になると思います。多様性やダイバーシティという言葉をあちこちで聞くようになった今、真の意味でお互いを認め合い、元気を交換し合えるような輪が広まっていくことにも繋がると思うんです」。
I LADY.では、恋愛やセックス、パートナーとの関係について考えるワークショップやセミナーを全国で展開。また、学生や若い方をピア・アクティビストとして育成し、彼らに一緒に活動してもらうことで、SRHRの推進を行っている。
「I LADY.に生きているアクティビストを増やして、その方々を皆さまに紹介していくというのが私たちのひとつのミッションです。年を通じてジョイセフが大切にしている記念日がふたつあり、ひとつは3月の国際女性デー、もうひとつは10月の国際ガールズデーです。そこでイベントを開催しアクティビストに登壇してもらい、啓発活動を行なっています。また、ウェブサイトでインタビュー記事を発信したり、【パジャマでおしゃべり】というYouTube企画で対談したりして、彼らがどのようにI LADY.に生きてきたかを発信しています。直近では、9月26日の“世界避妊デー”に、参加無料のオンラインイベントを実施し、9月28日には安全な中絶/流産を選ぶ権利に目を向ける“インターナショナル・セーフ・アボーションデー”というのがあるのですが、それに合わせてアクティビストたちと安全な中絶について考える機会を設定しています。最近は新型コロナウウイルスの影響で実施できないリアルイベントが多いので、オンラインの活動にも力を注いでいます」。
ジョイセフが国際女性デーに開催しているホワイトリボンランの模様。写真は2018年のイベント。(Photo/ Toshiki Kobayashi)
「わたしは旧家の初孫で、女の子として生まれてきて、親族にがっかりされたんです。母は男の子を産まなければというプレッシャーを感じていました。結局男の子は生まれず2人姉妹なのですが。でも親族皆が可愛がってくれ、差別されたというわけではなく寵愛を受けて育ちました。一方で、わたしは物心ついた頃から祖父から、うちの跡取りだから婿を取るんだぞと言われ続け、その陰で嫁である母には男の子を産んでくれと言っていたことがわかりました。なぜ男の子じゃなければいけないのか。まだ性差やジェンダーという言葉がわかっていなかった頃に、わたしにはそういう意識が芽生えたのだと思います。ジョイセフに来るきっかけもジェンダーやSRHRに興味があったからです。以前は大学の職員をしたのですが、アジアに旅行した時、カンボジアで出会った友達が2年後に出産で亡くなってしまったのです。当時、出産で亡くなるという理由がわからず質問したのですが、明確な答えは返ってきませんでした。日本では病院で出産するのが一般的ですが、当時カンボジアでは自宅で出産するのが当たり前で、彼女は3日間陣痛で苦しみ、お腹の子とともに亡くなってしまったんです。それで大学でカンボジアの出産事情を調べた時に、ジョイセフに出会いました。ジョイセフが国連人口基金の世界人口白書を日本語訳しており、そこでカンボジアや途上国では多くの女性が出産で亡くなっている現実を知ることになりました。またそれが女性の平均寿命を短くしていることも。そこからこの分野に関心を持ち、ジョイセフに入りたいと思うようになり、3年半後に募集があったので入ったのです」
「わたしが走ることになったのは、東日本大震災の時に出会ったある女性のひと言からでした。避難所で被災者の声をヒアリングし、困っていることがないか聞いて回っていた時に、67歳の女性からどこから来たの?と聞かれ、静岡県と伝えたら、静岡や中部地方は東海地震が起こると言われているけど、対策は取っているかと逆に聞かれたんです。その女性は津波で娘さんを亡くし、残された3人のお孫さんを育てていました。わたしは当時、37歳。亡くなられた娘さんと同い年だったんです。そんな偶然もあり、“あんた子供いるの?””と聞かれ、3歳の娘がいますと答えたら、何かあった時にその子を抱えて走れる、逃げられるくらいの体力をつけておきなさいと言われたんです。お嬢さんと3人の息子は、逃げている時に第二波が来て、7才の子は自力で屋根の上に登れた。5才の子も上がった。お母さんは2才の子を抱えていて7才の子に渡せた。でも自分の身体を上げることができず、体力がつきて第二波で流されてしまったんです。7才と5才の子供は、目の前でお母さんが流されていく姿を見ていたそうです。その話が衝撃的で……。今のわたしは娘を連れて逃げられないと思ったし、健康にも体力にも自信がない。もし明日地震がきたら自分も娘も助からないと本気で思いました。それでわたしはそのことを地元の友人に話し、一緒に運動することを始めたんです。週に1回のウォーキングから始まり、ジョギングをやるようになった。そうしたら明らかに運動する以前よりも健康になり、体力に自信もついて、風邪もひかなくなった。わたしでも変われたので、これを子育て中の母親たちに勧めたいと思い、HiPsというコミュニティを作りました。毎月、満月の日に集まって走って、参加費100円を被災地に寄付するのです。それをホワイトリボンランに移行したのは、わたしが二人目を出産して育休中のとき。国際女性デーが3月8日にあって、ちょうど満月ジョグの日でした。いつもやっている100円寄付を、ジョイセフを通じて途上国の女性を支援しようとtwitterやFacebookに投げかけたら、静岡だけでなく、それが全国に共感が生まれ連鎖した。自分が気持ちいいことを人に伝えたら、それが全国に広がった。いいことを共有するって、こういうことなんだって実感したのです」。
ホワイトリボンランの模様。登壇し参加した女性にエールを送る小野さん(左)。「500」にミモザの花を詰め込み、フィアットも応援に駆けつけた(右) Photo/ Toshiki Kobayashi
「フィアットにはすごくシンパシーを感じています。フィアットのお客さんって、自分のやりたいことを自分で選んでいる女性だと思いますが、ジョイセフのファン、支援者も同様で。ジョイセフは大きな国際組織でないのでそこまで知られていないと思うのですが、ファンの方は自分でこの小さな団体を選んで支援してくれているんです。女性がイキイキしている社会は、フィアットとジョイセフが共通して目指しているところなので、これからも連携して、一緒に活動できる機会を増やしたいです。一人ひとりがLove, Act, Decide yourselfするI L A D Y.に生きる人を増やす企画をフィアットと一緒にやっていきたいです。また、これまではイベント中心でしたが、これからはオンラインも活用し、お互いの伝えたいメッセージはもちろん、活動に賛同いただけるフィアットのファン、ジョイセフやI LADY.の輝いている女性たちをもっともっと自信つけたり、背中を押すことを発信していけたらと思います」。
元気な女性が今後ますます増えそうですね。今日はどうもありがとうございました。
Interview&text/ Takeo Somiya(Fresno Co., Ltd.)
Photo/ Masayuki Arakawa
すべての人が自分の「性」と向き合い、自分らしい選択ができるよう 働きかけるキャンペーン「I LADY.」
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フィアットがサポートする社会貢献活動「Share with FIAT」
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