フィアットが生まれた国、イタリアにはバール文化が根付いており、バールでコーヒーを飲むことは生活の一部になっています。バールのつづりは「BAR」で、英語だとバー(酒場)になりますが、イタリアのバールは「コーヒーショップ+ショットバー」という存在。イタリアでは一人ひとりがお気入りのバール「MIO BAR(ミオ・バール = 私のバール)」を持っており、エスプレッソマシンで淹れられたコーヒーを楽しんでいるそうです。
そんなエスプレッソ大国イタリアで生まれたといわれるもうひとつの文化、それが「ラテアート」。エスプレッソにスチームしたミルクを注いで、コーヒーの表面にハートやリーフなどの模様を描くのです。見たことがあるという方も多いと思います。
そしてここ日本に、イタリア生まれのラテアートをさらに進化させた人物がいることをご存知でしょうか。原宿のカフェReissue(リシュー)の代表を務める「じょーじ」こと山本員揮(かずき)さんがその人。山本さんがラテアートをどのように進化させたのか、Reissueでお話を伺いました。
— まず、山本さんがラテアートに興味を持ったきっかけを教えてください。
両親が喫茶店を経営していたこともあり、飲食業に進むことは自然な流れでした。
高校を卒業して、すぐに岡山から上京。18歳のときにフレンチレストランで働きはじめました。そこで先輩から教わりながらカプチーノを淹れたのが最初ですね。
— その後はどうやってラテアートのスキルを身につけていったのですか?
レストランで働いているうちに、スタンダードなハートやリーフのラテアートは描けるようになりました。その後は独学で、いろんなキャラクターを描く練習をしていました。
あるとき、制作したラテアートの画像を友人に見せたところ、すごく喜んでくれて。それからSNSを通じて、毎日いろいろな作品を発信するようになりました。自分のラテアートでだれかが喜んでくれることの楽しさを知ったんです。
ただ、この時点ではまだ平面のラテアートでしたね。まずは、スタンダードなラテアートを見てみますか?
* * *
今回、ラテアートの制作を担当してくれるのは、Reissueスタッフの「しぃ」さん。パティシエからラテアーティストに転身したという彼女は、パティシエ時代にチョコペンで描いた経験をいかしたイラストのラテアートが得意だそう。
まずは、ポルタフィルターという容器に挽いたコーヒー豆を入れます。
その後、タンパーという道具でしっかりとコーヒー豆を押し詰めていきます。この作業が高圧で抽出するエスプレッソにとって、非常に重要となります。
しっかりと押し固めた豆が詰まったポルタフィルターを、エスプレッソマシンにセット。良い香りとともに、エスプレッソが抽出されます。
つぎはスチームミルクを作ります。使用するのは普通の牛乳。蒸気を使って温めながら、しっかりと泡立てていきます。
エスプレッソとスチームミルクができたら準備完了。スチームミルクを注ぎ、模様を描きます。
迷うことなく注がれたカップの表面には素敵なハートマークが浮かんできます。ラテアートの原点ともいわれる、ベーシックなデザインのできあがりです。
— いま見せていただいたハートのラテアートはいわゆる2D(二次元)ですが、山本さんが発明したという「3D(3次元)ラテアート」はどのようにして生まれたのでしょうか。
2010年前後でしょうか。そのころ3Dのゲームや映画が世界的に流行していたんですが、私も人を喜ばせる要素として“3D”を使って何か表現したいという想いが生まれました。
そこで思いついたのが、レストランでの修業中に学んだ、「ホットチョコレートの上に泡立てたミルクをアクセントで盛る」という技術。それを応用して、カップの上に泡を盛り、試しにウサギの耳を作ってみたんです。すると、意外にもしっかりとしたかたちができて(笑)。これが、3Dラテアートの始まりです。
— SNSの反応もすごかったんじゃないですか?
投稿を続けていくなかで、何回かバズることもありましたね。特に海外からの反響がすごく大きくて、「日本人がラテアートで見たこともないことをしている!」と。
しばらくすると世界各国からお仕事のオファーをいただけるようになり、各地を転々。ワークショップで訪れたマカオでは、カジノのカフェでラテアートを作ったことも(笑)。帰国後の2015年に、ここ原宿でReissueをオープンしました。オープンしてからも、8割くらいは海外のお客様です。ありがたいことに、世界各国からラテアートを楽しみにしてご来店くださいます。
— 世界各国のお客様からは、リクエストもさまざまですか?
そうですね。基本的にはお客様のリクエストに合わせて、どんな絵柄でもラテアートで表現しています。平面、3D問わずです。ただ3Dラテアートは泡で作品を作る以上、物理的にできないかたちもあります。
例えば、難しかったリクエストは…東京タワーですね(笑)。高さがあるものは基本的に難しいのですが、カップ自体に絵を描いて高さが出ているように見せたり、デフォルメの具合などを考えたり、アイデアを絞って工夫しながら制作に励んでいます。
―3Dラテアートの難しさとは?
平面のラテアートに関しては、時間をかければ、どこまでも技術が上達すると思っています。しかし、3Dラテアートは積み木やパズルに似た感覚で、“泡を組み立てて”作ります。なので、順番を間違えると修正が難しい。最初はどのパーツから作っていこうとか、どこに泡を盛ったら作りやすいとか、そういうことを常に考えながら制作しています。
— 山本さんが大切にしていることがあれば教えてください。
どんなラテアートでも描けるということのほかに、ラテの「飲み物」としての側面を大事にしています。
レストランで働いていたときには、アートを施さないおいしいラテを学んできました。絵を描くラテアートは、制作に時間を要しますし、できあがった作品を眺めて、写真を撮っていくお客様が多いです。そのため、冷めてしまうのが前提の飲み物かもしれません。ですが、できる限りおいしいラテを飲んでいただきたいという想いがあるので、カップを事前に暖めておいたり、5分以内を目安にラテアートを制作したりと努力をしています。
アートの部分に時間を掛けるほど凝った作品になっていきますが、その反面、時間の経過とともに冷めていってしまいます。なるべく早く、どのようにしたらいい作品になるかをいつも考えています。
— 今後、ラテアートで表現したいことはありますか?
いまは海外のお客さんが日本に来られない状況ということもあり、作品をSNSでもっと海外に発信していきたいなと思っています。ラテアーティストが3人いるので、ゆくゆくは海外に派遣したりすることもできるかなと。
ちいさなアイデアを作品に変えていく私たちのスタイルは変えず、ラテアートの活動を広めていきたいです。そして、みなさんに喜んでいただけたら嬉しいですね。
Reissueでは、写真などを持っていくとオリジナルのラテアートを作ってくれます。今回はフィアットを代表するコンパクトカー「500(チンクエチェント)」をモデルに、3Dラテアートをリクエストしてみました。
作ってくれるのは、引き続き「しぃ」さん。まずは、平面のときと同じ要領でカプチーノを淹れます。ここまでは、3Dでも作り方は一緒。左下のスマートフォンに表示されているのは、今回リクエストした500の写真です。
次に3Dのベースとなる盛りつけ用の”ミルクの泡”を作ります。泡立てたら時間をおいて、泡を安定させておきます。
その泡をカプチーノのうえに、豪快に盛り付けていきます。まったく迷いがないから驚きです。盛りつけが済んだら、器用なスプーン使いで、泡のかたちを整えます。今のところ500の姿は…確認できません。
泡で輪郭ができたら、最後は絵付け。濃い部分はチョコソース、薄い部分はカプチーノの泡を利用して、濃淡を表現。こちらも筆が止まることなく、あっという間にクルマの面影がでてきました。
そして完成したのがこちらの作品。今にもカップを飛び出して、走り出しそうな500。丸みを帯びたボディやグリルの再現度に至るまで圧巻のクオリティ!
カップをゆらすとまるで走るようにプルプル動いて、それもかわいいんです。
手のこんだラテアートは、わずか5年ほど前までは、邪道と呼ぶ人も少なくなかったそう。しかし、山本さんの誰かを楽しませたいという熱い想いと、オリジナリティ溢れるアイデアによって、いまや世界から注目される文化になりました。みなさんも世界にひとつのラテアートを作ってもらってはいかがでしょうか。
Reissue(リシュー)
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3ー25ー7 丹治ビル2F
TEL 03-5785-3144
営業時間 10:00~19:00
Reissueインスタグラムでは、新しいラテアート作品を次々と発信中!
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