高校の同級生だった鈴木鉄平(すずき・てっぺい)さんと山代徹(やましろ・とおる)さんが、地元・横浜市青葉区にある自宅のひと間を改装し、2010年からスタートした“旅する八百屋”こと『青果ミコト屋』。キャンピングカーで地道に全国の産地を巡りながら、個人向けの定期宅配、飲食店への卸し、ケータリングやイベント出店など自由なスタイルで活動しながら、自然栽培の野菜の魅力を伝えてきました。
そんな『青果ミコト屋』が創業10年を迎える2021年に、八百屋とアイスクリームショップ『KIKI NATURAL ICECREAM』を併設した初の実店舗『Micotoya House(ミコトヤ ハウス)』を青葉区でオープン! そこで今回は、サステナブルな取り組みをしているショップを訪れる企画として、コンパクトで街乗りにぴったりな電気自動車『500e(チンクエチェントイー)』で『Micotoya House』へ向かい、代表の鈴木さんにお話を伺いました。
商業施設や店舗が立ち並ぶ、東急田園都市線沿いのベッドタウン・青葉台。その中心部からしばらく『500e(チンクエチェントイー)』を走らせると、先ほどまでの喧騒とは一転、のどかな風景が広がり始めました。そして大通りからひとつ裏の道に入り、ちょっと進んだ先に現れたのは、緑に包まれた煉瓦造りの建物。ここが“旅する八百屋”こと『青果ミコト屋』が2021年にオープンした初の実店舗であり、八百屋兼アイスクリームショップの『Micotoya House(ミコトヤ ハウス)』です。
──『青果ミコト屋』は活動開始から10年を経て、昨年新たに『Micotoya House』をオープンしましたが、鈴木さんが実店舗を持とうと思ったのはなぜですか?
僕たちが“旅する八百屋”としてこれまで拠点を持たなかった一番の理由は、やっぱり旅がしづらくなると思っていたからなんですね。それでひとつの場所に留まらない自由なスタイルで10年続けて来たんですが、いろんな産地へ訪れると、みんなその土地に意味を見出して、そこで根付いたものを生かして表現している人たちにいっぱい出会いました。そこからひとつの場所に根付いて良さを表現していくことも、すごく素敵でうらやましいなと思い始めたんです。
──それで鈴木さんの地元である青葉区で店を開こうと思ったんですね。
はい。そういうのって田舎の自然豊かな土地だからできることかなとも思っていたけど、ここ(青葉区)の良さもあるはずと思いました。そこら中に山や川があるような環境じゃないけど、少しクルマを走らせたら意外と畑や田んぼがあって、さらに人口が多いので情報は行き交いやすいし、お店をやることでいろんな人たちがここに集まってくれるんじゃないかなと。実際にお店をオープンしてからは、今まで僕らが旅して出会ってきた農家さんたちが遊びに来てくれることもあります。前より旅はしづらくなったけど、会いたい人にはちゃんと会えているし、元々そういう場所にできたらいいなと思って、店名に“House”を入れたんですね。僕たちの家にみんなが気軽に立ち寄って、またそこから次の場所に行く──いろいろなものが交わる場所が作りたいなと思ったんです。
──『Micotoya House』で販売しているものや、その売り方の特徴を教えてください。
まず、スーパーの野菜とかがそうですが、プラスチックで個包装して販売していることが多いですよね。ただしあのプラスチックは使い捨てで、自然に還ることのない素材です。僕たちは自然栽培の野菜を扱っていて、それはやっぱり未来の環境のことを思って選んでいるわけですが、その野菜を売るためにプラスチックを使うのはやっぱり矛盾しますよね。なので『Micotoya House』では野菜のおくるみとしてオーガニックコットンのガーゼを湿らせて包んだり、水を張ってそこに野菜を入れたり、買った野菜は新聞紙に包んだりして、プラスチックフリーの売り場を作りました。
あと野菜ってライフスタイルや家族形態によって食べる量は変わりますが、大体は1袋いくらで売ってますよね。それも食べ切れずに野菜をダメにしてしまう理由になるし、「これ食べたいけど多いからやめよう」と思ってしまう理由にもなるので、うちでは量り売りにしています。それもゼロウェイスト(=可能な限り廃棄物を減らそうとする活動のこと)の観点からですが、あとは野菜を自分たちで選んで量って買うと、野菜の100グラムの感覚がわかったり、野菜への愛着が湧いてきたりするんですよね。実際、お客さんと話していると大事に食べてくれているのが伝わってきます。
──加えて、併設しているアイスクリームショップ『KIKI NATURAL ICECREAM(キキ ナチュラル アイスクリーム)』が話題を呼んでいますが、なぜアイスクリームのお店をやろうと思ったんですか?
これまでの個人宅配や卸しは事前にわかる必要な分だけを注文する形だったんですけど、やっぱりお店を構える場合は、ある程度の野菜の量が必要になります。ただし、ロスを出したくないという想いでずっと同じスタイルでやってきたので、そのためにどうすればいいのかを考えました。
僕たちは農家さんを直接訪ねてコミュニケーションを取って、自分たちが“惚れた”野菜を仕入れているんですけど、実際に畑の現場に行くと、美味しく食べられるのにいろいろな理由で廃棄されてしまう野菜がけっこうあって。そのため、そういう野菜を農家さんから買い取って、店で売れ残った野菜も含めてアイスクリームの材料として使っています。それによって野菜にまつわるいろいろなストーリーをお客さんに伝えられるし、農家さんにとっては廃棄してしまうものがお金に変えられたら経営としてもいいので、そういう“三方よし”の関係が作れたらなと思って始めました。
──アイスクリームができる工程が、『ミコト屋』のスタイルからブレてないですよね。
そうですね。それにサステナブルの話をするときって、どこか説教じみた感じが出てしまいがちじゃないですか。ただアイスクリームってすごくポップだし、単純に「美味しくて最高!」っていう中に、実はそういうロスになるものが使われているっていうストーリーを伝えられる。それっていきなり真面目な話を聞かされるより、嫌味なく聞けるのかなと思うし、興味がなければ美味しいだけでもいい。どちらにせよ僕らは、ストーリーを伝えるお店でありたいなといつも思っています。
──全国の農家の方とやりとりされている中で感じる業界の課題はありますか?
例えば後継者問題で言うと、僕たちがお付き合いのある農家さんの中にも、跡継ぎがいなくて廃業寸前に陥ってしまっているところもあります。なので直接的な利益を生むものではないですけど、僕たちも仕事のひとつとして、スタッフ総出で農作業のお手伝いに行ったりもしています。農家さんの後継者問題をちゃんと発信して担い手を探していくことや、農業に興味を持っている若者たちと農家さんをマッチングさせることなども、僕たちはやりやすいポジションにいると思うので、そういうことも今後はより注力していきたいなと思っています。
──『青果ミコト屋』は創業からここまで、“畑と食卓の間”を繋ぐ存在としてずっとやってこられたと思うのですが、今でもさまざまな“間”を繋いでいるんですね。
八百屋って本来そういう仕事だと思いますし、その距離が縮まれば縮まるほど、食べ手はすごく野菜を大事に扱ってくれる。逆に言うと農家さんも誰がどういう風に食べてくれて、どう思ってくれているのかっていうのを知れば知れるほど、やりがいになると思うんですよね。
──鈴木さんご自身はいち消費者として、ものへのこだわりはありますか?
ありますね。自分が好きなものはもちろん、自分と縁や出会いがあるものの中から選ぶことが多いです。例えばこのマスクは知り合いが愛媛の西条で採れるブルーベリーで染めたものですし、今日はTシャツやズボンも友達のブランド。消費が社会を作っていくと思っているので、ただオシャレだから買うとかではなく、自分の幸せのその先に、何かポジティブな気持ちへつながってほしい。縁のある人が想いを持って作っているものを買えば買うほどいい世の中になっていくと思うし、安いものにはやっぱり理由があって、どこかにひずみが生まれているかもしれない。だから何か買うものに対して、ちゃんと意志と責任を持つことは大事だなと思います。
──そういった考え方は、『ミコト屋』でやることすべてに通じていますね。
そうですね。その方が気持ちいいじゃないですか? アイスクリームもコンビニへ行けば100円ぐらいで売っているけど、体に優しくて、さらにフードロスを少しだけ解消できるアイスクリームを買うっていうのは、シンプルに気持ちいい消費だと思うんですよね。そういう消費行動を嫌味なく、気持ちよく促せるようなお店であれたらいいなとは常々思います。まあいろいろなことを突き詰めると矛盾が生まれてきてしまうことはありますし、いいことをしていても揚げ足を取る人たちもいるかもしれない。でもそういうベクトルではなくて、いいことに対して素直に「それいいね!」って言えるような環境を作りたいですし、そういう世の中になったらいいですよね。
──ちなみに今日乗ってきた『500e』はフィアットを代表する『500』初の電気自動車で、クラシカルなデザインとの融合も話題なのですが、どんな印象を持ちましたか?
見た目がすごくカワイイですし、色もいいし、こういった電気自動車はこれからの時代性を感じます。農業で言うと僕らが付き合っている農家さんの中には、クラシカルというか昔ながらの道具だけで農業をやっている人もいる一方で、スマートアグリのようにITを駆使した農業っていうのもやっぱり可能性はすごくある。今は科学もどんどん進歩していくし、それに対して「そんなの農業じゃないよね」みたいな感じで頭ごなしに否定するのはちょっと違うかなと。農業も、クルマも、いいことはいいとニュートラルにジャッジできるようにありたいなと思いますね。
インタビュー後には、『KIKI NATURAL ICECREAM』自慢のアイスクリームを実際に食べてみました! 定番の“KIKIミルク”や季節の野菜を使ったフレイバー、さらには日本酒を醸造する際の副産物である酒粕を使ったものまで、素材を活かしたアイスクリームが充実。そのどれもが大地の恵みを感じられる優しい味わいで、鈴木さんが伝えてくれた野菜たちのストーリーが、その味わいをより深くしていたように感じます。そしてその美味しさは同時に、野菜もクルマも、サステナブルもテクノロジーも、すべては“物語”があれば“愛着”が生まれるということも教えてくれました。
【INFORMATION】
MICOTOYA HOUSE
住所:神奈川県横浜市青葉区梅が丘7-8
営業時間:11:00-18:00(平日)/ 10:00-18:00(土日祝)
定休日:木曜日
TEL:045-507-3504
URL:https://micotoya.com/about/
*店舗情報につきましては、掲載時(2022年7月現在)の情報となります。新型コロナウイルス感染拡大防止措置により、変更となっている場合がございますのでご留意ください。また、外出の際はウイルス感染予防策を講じていただき、安全にご配慮いただきますようお願いいたします。
Text:ラスカル(NaNo.works)
Photos:大石隼土
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