“文化を纏う”をコンセプトにイタリアのシルクと日本のヴィンテージの着物素材を組み合わせたアイテムを提案する『renacnatta(レナクナッタ)』と、着物のアップサイクルをメインテーマとする『cravatta by renacnatta(クラヴァッタ・バイ・レナクナッタ)』。日本とイタリアで使わ“れなくなった”、着ら“れなくなった”デッドストックのテキスタイルに新たな価値を吹き込み、衰退の進む伝統文化を今に伝える理念のもと、ものづくりを展開しているファッションブランドです。
2016年に同ブランドを立ち上げ、現在イタリアと日本で2拠点生活を送るディレクター兼デザイナーの大河内愛加さん。10代で移り住んだイタリアの文化に直で触れるなか、現地の人々の日常に根付いた古いものを大切にする価値観と、西陣織や金彩といった古来より受け継がれる母国・日本の伝統文化の融合に行き着いたそう。自身のバックグラウンドを振り返るとともに、ブランド立ち上げの経緯とアイテムに込めた想いについて伺いました。
大河内さんが家族でイタリア・ミラノに移り住んだのは、15歳のときのこと。5年制の高校生活で美術・建築について学ぶなか、早い段階で「将来は、クリエイティブな職に就きたい」というヴィジョンを描き始めていたといいます。
グラフィックデザインやアートディレクションの道へ進もうと考えていた高校5年生の折、大河内さんの指針に、大きな影響をもたらす思いがけない出来事が起こります。それは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。イタリアの文化圏で現地の友人たちとともに生活を送る大河内さんにとって、自身のバックグラウンドと向き合うきっかけになったと、当時のことをこう振り返ります。
「その頃は、イタリアの生活に慣れていたこともあって、日本への関心が薄くなっていた時期でした。私自身、イタリア人としてミラノでずっと過ごしていくんだろうと思っていたんです。そんなときに東日本大震災が起きて、大変ショックを受けるとともに、復興の様子を見て“自分の母国は、すごい国なんだ“と改めて感じました。当時、イタリア人の友人たちがすごく心配してくれたこと、学校で義援金を募る活動をしたことも自分が日本人であるということに向き合うきっかけになったと思います。そうしたなかで、クリエイティブな職業に就きたいと考えると同時に、日本に関わる仕事をしたいと思うようになりました」
高校卒業後、現地の大学で広告デザインを学ぶ傍ら、経産省がミラノに設立したクールジャパン機構のショールームでインターンシップに参加した大河内さん。大学卒業後も引き続き同ショールームに勤務し、同時にグラフィックデザインや広告の分野でのキャリアをスタート。ブランド立ち上げにつながる転機が訪れたのはショールーム閉鎖後とのこと。クライアントワークを続けるなかで、「自分が納得した状態で手がけたものを発表出来る仕事がしたい」という想いが芽生えたのだといいます。
そして、イタリアと日本の国交樹立150周年という記念の年、かつ大河内さんがイタリアに移り住んで10年目という節目の年である2016年2月、イタリアと日本の素材を組み合わせたアイテムを展開するブランド『renacnatta』を立ち上げました。ブランド名は、日本とイタリアで使わ“れなくなった”デッドストックシルクが、新たな商品として生まれ変わることに由来。日本で織られた絹の着物の反物と、ヨーロッパのブランドのデッドストックシルクを使用しています。ブランドコンセプトである“文化を纏う”を体現する、異なる背景を持つ素材が組み合わさったrenacnattaのアイテムには、大河内さん自身が生活の中で触れてきたイタリアの文化と価値観が反映されています。
「古いものを大切にするイタリアの文化には、とても好感を抱いています。美術史に登場する歴史的建築に始まり、服も家具も街を見渡せば古いものがたくさんあふれていますし、使われなくなったものを誰かが引き継ぐという生活に根付いています。生まれたときからずっとこの環境に身を置いているイタリア人を羨ましく感じつつ、私自身もそうした環境で10代を過ごせたのはすごく貴重な体験だったと思うようになりました」
「イタリアに住んでいた頃は、夏休みに日本へ一時帰国したりすると、新しいものにあふれた日本がとても刺激的で面白く思えたんです。その反面、重みのなさも感じていました。2つの国の文化に触れたことで、自分のブランドでは長く愛される、流行りに左右されないようなクールなデザインにしたいと考えるようになりましたし、現在も心がけていることです」
都内百貨店でのポップアップや劇団四季とのコラボレーションなど、ブランドとして着実に認知度を高めてきたrenacnattaですが、大河内さん自身アパレルを専攻していないことに加え、ブランドの理念をアイテムとして形づくるうえで和の織物とシルクを縫い合わせる技術的な難しさに直面することも。しかし、その一方で従来のファッションブランドのセオリーに捉われない柔軟な姿勢がブランドに自由な解釈と余白をもたらしています。
「自分が何をしたいのかを考えた時に、まず“ファッションを売っている”という感覚はなかったんです。私が売っているのは文化で、そのためのツールとしてファッションがあると考えています。“文化を纏う”というコンセプト自体、それぞれが考える“文化”があると思うので、受け取ってくださる方が自由に想像してくれればいいと思っています」
次ページ:【SDGsの側面からも注目を集めているrenacnatta】
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