fiat magazine ciao!

#バール

LIFESTYLE

イタリア流エスプレッソの楽しみ方

イタリア人の毎日に欠くことのできない飲み物、それが「エスプレッソ」。19世紀末にイタリアで発明されたエスプレッソは、20世紀になると街中で飲まれるようになり、その後一般家庭にも広く普及しました。イタリアのBAR(バール)では、老若男女を問わずエスプレッソを楽しむ姿をよく目にします。そんなエスプレッソの知識や楽しみ方などを、イタリアのカフェ業界に長く携わる日本バリスタ協会インストラクター中川直也(なかがわ なおや)さんに伺いました。  旨味が凝縮されたエスプレッソの正体 「本場イタリアでは、エスプレッソの定義がしっかりと決められているのです」という中川さん。エスプレッソと呼ばれるのは、7gの極細挽きのコーヒー豆を使い、約9気圧の圧力をかけた90度ほどの熱湯で、25(±2.5)秒で抽出して、出来上がりが25(±2.5)mℓの液体のことだといいます。家庭でよく飲まれるコーヒーとの違いは、この独特な淹れ方にあったのです。 「コーヒー豆を使用するのは同じですが、エスプレッソとコーヒーは抽出方法がまったく違います。一般的なコーヒーは、フィルターで漉したドリップ式や、サイフォン式など。エスプレッソの場合は圧力をかけたお湯を使って抽出する方式なんです」 。 そして、エスプレッソを口に含むんだときに感じる「苦味」は “焙煎”や“豆の品種”や“豆のもつ成分”によるもの。「砂糖を焦がした時に苦味が出ますよね。それと同じように、コーヒー豆も焙煎することで苦味が出ます。カフェインやポリフェノールの苦味でもありますし、豆がもともと持っている“酸味”も関係しています。酸味は焙煎していくと徐々に減っていき、逆に苦味が出てきます」。  また、苦味の強いエスプレッソには、カフェインが多く含まれていると思われがちですが、実はそうではないという中川さん。「カフェインは水溶性なので、抽出時間が長く、使用するお湯の量が多いドリップコーヒーの方が多く溶け出します。一方、抽出時間が短く、使用するお湯の量も少ないエスプレッソに含まれるカフェインの量は少なめ。ドリップコーヒー1杯や板チョコ1枚の方が多いんですよ」。 エスプレッソに欠かせない「上質なクレマ」 美味しいエスプレッソの条件は、きめ細やかな“クレマ”があることだという中川さん。クレマとは、エスプレッソの最上層にできるクリームのような泡のこと。独特のとろみが感じられるクレマは、深い味と香り、そしてコクに影響を与えて楽しめます。 「きめの詰まったクレマだと、その上に落とした砂糖が一瞬止まるんです。また、きめ細かい泡だと砂糖を落とした後、クレマが復活します。それを口に含むと、20〜30分は余韻が残りますよ」。  そして、中川さんによると、エスプレッソカップにもイタリア人のこだわりが詰まっているとのこと。「エスプレッソカップの底は、ほとんどが卵型。乳化した液体を、卵型のカップの底に抽出することにより、全体がちょうどよく混ざり合うため、味に一体感が生まれるのです。これも、より美味しくエスプレッソを飲むためのイタリア人のこだわりですね」。  さらに、地域によってエスプレッソカップの特徴が異なると語る中川さん。「ワイングラスと同じように、縁が厚いカップは、味の感じ方が鈍くになります。そのため、軽やかな香りのエスプレッソが多い北イタリアでは、香りをより感じやすくするため、縁の薄いカップが主流です。一方、ビターなエスプレッソが多い南イタリアでは、苦味が立ちすぎないため、縁の厚いカップが多いのです」。ちなみに、カップの縁はイタリア北部から南部に向かうごとに厚くなり、縁の厚さ約1センチというエスプレッソカップもあるそうです。 本場イタリア流の楽しみ方 イタリア人の生活になくてはならないのがバールと呼ばれるカフェ。その数は、人口当たりで換算すると日本の約4倍だとか。そして、立ち飲みでのエスプレッソ価格は、1杯あたり1〜1.2ユーロほど。缶コーヒーを飲むような気軽な感覚で、イタリア人は1日に5〜6杯程のエスプレッソを楽しむそうです。「都心部で働くイタリア人は朝食代わりにまずはエスプレッソを使ったカプチーノを1杯、11時くらいに休憩しながらもう1杯飲みます。13時頃、ランチ後に1杯。さらに、15時から夕方にかけて1~2杯を飲みますね」。 英語の“express(急行)”という意味のほか、“あなたのための特別の1杯”という語源もあるとされるイタリア語のエスプレッソは、注文を受けてから一杯ごと、短時間で抽出します。そんなエスプレッソをより美味しく飲むコツは、カウンターに置かれたら、すぐに飲み切ること。「イタリア人たちは出来たてが一番美味しいとわかっています。なので、注文から35秒ぐらいで “プレーゴ(どうぞ)”とテーブルに置かれた瞬間、バリスタの手が離れるか離れないかのスピードで砂糖を投入し、さっと飲み干します。早い人だと、1分ぐらいしかバールに滞在しません」。 またバールでは、カプチーノ、マッキャートなどエスプレッソベースのドリンクを楽しむイタリア人の姿も。泡立てた牛乳を少量入れたマッキャートは日中でも頼む人がいる一方、泡立てた牛乳をたっぷりと入れるカプチーノはお腹に溜まるため朝に飲まれることが多いとのこと。そして、このイタリアン・カプチーノ作りにも、しっかりとしたルールがあるそうです。  「定義どおりに抽出したエスプレッソを使うこと、そしてそのエスプレッソを他のカップに移さないことがルールです。そうしないと移す前のカップに美味しい部分が残ってしまい、香りも抜けてしまうのです。150〜180ccのカップに、25ccのエスプレッソを注ぎ、そのなかに55度に温めた泡立て牛乳を注いでいきます。表面が全体的に茶色く、真ん中が白くなるのが理想です」。  厚み15mm程で作られることが多い、カプチーノの泡。その作り方にもコツがあるそうです。「ポイントは、牛乳を一気に泡立てること。牛乳の表面から少し奥に、スチームノズルの先端を入れて、バルブを全開にします。泡ができたら、スチームの勢いで生まれる渦に泡を巻き込み、泡を乳化させながらきめ細かくします。泡が分離しないうちに、カップの底に一直線に注いでいくと、きれいな模様が完成します」。  エスプレッソの美味しい飲み方 中川さんによれば、エスプレッソには「クレマがきれいな茶色になっているか」や「キャラメルやバニラのような焙煎香を感じるか」など、美味しさと判定する10項目以上の評価があるとのこと。「出来たてのエスプレッソは“クレマ”と“コーヒーの液体”が一体化していて、時間が経つほど二層に分離していきます。クレマが沈着化していくと質が悪くなるので、2分ぐらいで飲み切るのが理想ですね」。 「砂糖を入れるかどうかは、お好みで。砂糖を入れないエスプレッソならコーヒーらしさを、砂糖を入れて混ぜ合わせればエスプレッソの真骨頂である“チョコレートテイスト”を味わえます。そして、飲む前にもうひとつ。香りを十分にかいでから飲み、飲んだ後も水などを飲まずに余韻を感じると、さらに楽しめますよ」とエスプレッソ通ならではの楽しみ方を中川さんは教えてくれました。 エスプレッソを自宅で上手に淹れる方法 一般的に、淹れるのが難しいと思われがちなエスプレッソ。でも、実は自宅でも美味しく淹れられると語る中川さん。「マシンと抽出器具、どちらを使うにしても、大事なのは“豆の粗さ”。抽出器具で淹れる場合は、家庭用に挽いた細挽きのコーヒー豆を使います。色合いとしては、チョコレートブラウンのものを。それより深い色になると、焙煎されすぎて苦みが強くなってしまいます。また、数種類の豆を使って、味わいをふくよかにするのもポイントです」。  「また、エスプレッソマシンで淹れる場合は、まずはエスプレッソホルダーに挽きたての粉をセットします(ドーシング)。粉は2杯分で14gが目安です。次に、粉を均一にならすレベリングを行います。粉の密度が均一になっていれば、お湯が通過するときに、美味しさの成分をしっかりと抜き出せるからです。エスプレッソホルダー全体を手で叩いて、ホルダーの内部まで振動させ、全体を均一にさせるのがポイント。熱劣化しないように、素早く2〜3回叩きます。そのあと“タンパー”と呼ばれる器具を使って、表面を水平に押し固めるタンピングをします。  あとは、ホルダーの縁に付いた粉を払って、機械にセットしたら抽出するだけ。熱劣化しないよう、この一連の動きを素早く丁寧に行ってください」。 イタリアでは昔ながらの器具「クックマ(下写真左)」や直火式の「モカ(写真中)」を使って、自宅でエスプレッソを楽しむ方も多いとのこと。  その中で、今回はポピュラーな直火式エスプレッソメーカー「マキネッタ」を使ったエスプレッソの淹れ方も教えてもらいました。「水を入れる下部容器のエアバブルより下に水を入れたら、バスケットに入れた粉を軽く叩いて均一にします。粉を固める必要はありません。バスケットの縁に付いた粉を払い、ガス漏れを防ぐために蓋を固く締めることがポイントですね。3分ぐらい中火にかけて、液体がトロンと出てきたら弱火にしてください。液体が出る勢いが止まらないときは火から離し、抽出終了後に液体をスプーンでかき混ぜてカップに注げば完成です」。  なお、エスプレッソを淹れる際、中川さんがオススメするのがナポリを代表するコーヒーメーカー「KIMBO(キンボ)」のコーヒー豆。50年以上の歴史があるKIMBOは、ナポリの人々が楽しめるコーヒー豆を提供。南イタリアで最も有名なメーカーで、少しビターな味わいが特徴です。また、イタリアでは地域によって好まれるコーヒー豆の味わいが違うため“南イタリアで好まれるロースト感のある香り”や“北イタリアで好まれる華やかな香り”など、KIMBOでは何十種類もの豆を用意しているとのこと。「今回使用したのは、チョコレートやキャラメル、バニラ、ナッツを感じる“プレステージ”という種類。この豆は、多くの方に好まれる万能選手なんですよ」。  短時間で抽出でき、どの時間帯でも気軽に楽しめるエスプレッソ。イタリア人の毎日に欠かせないエスプレッソを、あなたの日常にも取り入れてみませんか?  中川直也さん イタリア国際カフェテイスティング協会(IIAC)認定講師、IIACマスタープロフェッショナルの称号を持つ。イタリアのカフェの業界に長く携わり、イタリア・エスプレッソ普及活動を積極的に行っている。日本バリスタ協会インストラクター。イタリアエスプレッソ協会(INEI)エスプレッソスペシャリスト。モンテ物産株式会社 KIMBOブランド顧問。株式会社AUTENTICO代表。 […]