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手軽に“おうちバール”を楽しめる! 本格エスプレッソ・アイテム8選

イタリアで暮らす人々に、日々を彩るエッセンスとして愛されてきた“エスプレッソ”。街のバールでエスプレッソを飲む──その日常はコロナ禍において一時失われてしまいましたが、新たな盛り上がりを見せているのが自宅で手軽に本格エスプレッソを楽しむ“おうちバール”です。そこで今回は、最新&おすすめのエスプレッソ・アイテム8選をご紹介!   イタリアのエスプレッソ文化。ブームとなっている“おうちバール”   イタリア人の生活の中にごく自然に存在し、単なる飲み物という枠を超えて、ライフスタイルの一部として愛されている“エスプレッソ”。その始まりは19世紀末までさかのぼり、20世紀に入るとイタリアの一般家庭でも普及。長い年月をかけて、イタリアならではのエスプレッソ文化が育まれてきました。 イタリアでは使用するコーヒー豆の量や抽出する時間など、エスプレッソの定義が明確に定められており、なおかつカップひとつをとっても地域ごとに特徴が異なるなど、そのこだわりは群を抜いています。加えて人々の生活に欠かせないのが、人口当たりで換算すると日本の約4倍も存在するという“バール”。そこでは1〜1.2ユーロ(1ユーロ=132円。2021年11月現在)ほどの値段でエスプレッソを飲むことができるため、イタリア人は平均で1日に5〜6杯を嗜むと言われています。 しかし2020年以降、コロナ禍のロックダウンでバールが閉店を余儀なくされ、仕事前やランチ後などにバールへ行く人々の姿が街から消えました。それでもイタリア人のエスプレッソ愛は消えることなく、いま新たに盛り上がりを見せているのが“おうちバール”! バールに行けないときも最新の機能を備えたコーヒーメーカーや伝統的なアイテムを使うことで、自宅でも本格的なエスプレッソを楽しんでいます。 そこで今回は、イタリアでブームとなっている“おうちバール”に習って、ご自宅でも美味しい本格エスプレッソを楽しめる最新&おすすめのアイテム8選をご紹介します。   イタリアで“一家に一台は必ずある”直火式コーヒーメーカー   ▲〈BIALETTI(ビアレッティ)〉MOKA EXPRESS 2cup 5,280円(税込)   1919年に創業し、“髭おじさん”のトレードマークで知られるイタリアの老舗キッチンウェアメーカー〈BIALETTI(ビアレッティ)〉。約100年変わらない八角形のデザインが同ブランドのアイコンであり、イタリアで“一家に一台は必ずある”とされる元祖直火式コーヒーメーカーが『MOKA EXPRESS(モカエキスプレス)』です。伝統的に受け継がれたシンプルかつ機能的な美しいフォルムに加え、人間工学に基づいた新たなハンドルを採用するなど今でも進化中。そしてサイズは使用人数やシーンに合わせて、1から18までのカップをラインナップしています。世界中のコーヒーファンに愛されてきた逸品は、エスプレッソ好きの方はもちろん、アンティーク好きの方にもおすすめ!     ▼INFO:画像提供 STRIX DESIGN INC https://strixdesign.jp/     巨匠建築家がデザイン。2021年は100周年モデルが登場!   ▲〈ALESSI(アレッシィ)〉LA CONICA エスプレッソメーカー 3CUP 40,700円(税込)     1921年にイタリア・オルタ湖に面した町で金属製品を手掛ける工房として創業し、イタリアを代表するデザイン・プロダクト・カンパニーとして名高い〈ALESSI(アレッシィ)〉。1970年代からは著名建築家やデザイナーとともにデザイン性に優れた製品を生み出しています。この『LA CONICA(ラコニカ)』も同様で、20世紀後半を代表するイタリアの巨匠建築家、アルド・ロッシがデザインした直火式エスプレッソコーヒーメーカー。研ぎ澄まされた幾何学的形状が美しい本体はステンレス、そして底面は銅で製造され、サイズは3カップ用と6カップ用から選ぶことができます。2021年は100周年記念モデルとして、ハンドル部分をモデルチェンジした商品が登場予定!   ▼INFO:画像提供 株式会社フジイ https://alessijp.com/     世界中のバリスタが称賛!世界で愛されるプロフェッショナルモデル   ▲〈Flair Espresso(フレアエスプレッソ)〉FLAIR PRO 2 42,800円(税込)     〈Flair Espresso(フレアエスプレッソ)〉は世界中で愛される革新的なエスプレッソメーカーとして知られ、同メーカーにおける最新作の『FLAIR PRO 2(フレア プロ2)』は、エスプレッソの抽出のみに特化した本格&コンパクトな最上位モデルとして話題を呼んでいます。コーヒー粉の量は16〜24g、お湯の量は70ml、抽出できるエスプレッソの量は最大で56ml。オールステンレス製×ダブルショット(約56ml)が可能な醸造システムを搭載し、フィルター・スパウト・ハンドルグリップ・保護ラップなど、4つのポイントがアップグレードされています。最高品質のエスプレッソメーカーを使い、まるで世界のトップ・バリスタが作り出すようなエスプレッソをとことん堪能しましょう。 […]

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イタリア流エスプレッソの楽しみ方

イタリア人の毎日に欠くことのできない飲み物、それが「エスプレッソ」。19世紀末にイタリアで発明されたエスプレッソは、20世紀になると街中で飲まれるようになり、その後一般家庭にも広く普及しました。イタリアのBAR(バール)では、老若男女を問わずエスプレッソを楽しむ姿をよく目にします。そんなエスプレッソの知識や楽しみ方などを、イタリアのカフェ業界に長く携わる日本バリスタ協会インストラクター中川直也(なかがわ なおや)さんに伺いました。  旨味が凝縮されたエスプレッソの正体 「本場イタリアでは、エスプレッソの定義がしっかりと決められているのです」という中川さん。エスプレッソと呼ばれるのは、7gの極細挽きのコーヒー豆を使い、約9気圧の圧力をかけた90度ほどの熱湯で、25(±2.5)秒で抽出して、出来上がりが25(±2.5)mℓの液体のことだといいます。家庭でよく飲まれるコーヒーとの違いは、この独特な淹れ方にあったのです。 「コーヒー豆を使用するのは同じですが、エスプレッソとコーヒーは抽出方法がまったく違います。一般的なコーヒーは、フィルターで漉したドリップ式や、サイフォン式など。エスプレッソの場合は圧力をかけたお湯を使って抽出する方式なんです」 。 そして、エスプレッソを口に含むんだときに感じる「苦味」は “焙煎”や“豆の品種”や“豆のもつ成分”によるもの。「砂糖を焦がした時に苦味が出ますよね。それと同じように、コーヒー豆も焙煎することで苦味が出ます。カフェインやポリフェノールの苦味でもありますし、豆がもともと持っている“酸味”も関係しています。酸味は焙煎していくと徐々に減っていき、逆に苦味が出てきます」。  また、苦味の強いエスプレッソには、カフェインが多く含まれていると思われがちですが、実はそうではないという中川さん。「カフェインは水溶性なので、抽出時間が長く、使用するお湯の量が多いドリップコーヒーの方が多く溶け出します。一方、抽出時間が短く、使用するお湯の量も少ないエスプレッソに含まれるカフェインの量は少なめ。ドリップコーヒー1杯や板チョコ1枚の方が多いんですよ」。 エスプレッソに欠かせない「上質なクレマ」 美味しいエスプレッソの条件は、きめ細やかな“クレマ”があることだという中川さん。クレマとは、エスプレッソの最上層にできるクリームのような泡のこと。独特のとろみが感じられるクレマは、深い味と香り、そしてコクに影響を与えて楽しめます。 「きめの詰まったクレマだと、その上に落とした砂糖が一瞬止まるんです。また、きめ細かい泡だと砂糖を落とした後、クレマが復活します。それを口に含むと、20〜30分は余韻が残りますよ」。  そして、中川さんによると、エスプレッソカップにもイタリア人のこだわりが詰まっているとのこと。「エスプレッソカップの底は、ほとんどが卵型。乳化した液体を、卵型のカップの底に抽出することにより、全体がちょうどよく混ざり合うため、味に一体感が生まれるのです。これも、より美味しくエスプレッソを飲むためのイタリア人のこだわりですね」。  さらに、地域によってエスプレッソカップの特徴が異なると語る中川さん。「ワイングラスと同じように、縁が厚いカップは、味の感じ方が鈍くになります。そのため、軽やかな香りのエスプレッソが多い北イタリアでは、香りをより感じやすくするため、縁の薄いカップが主流です。一方、ビターなエスプレッソが多い南イタリアでは、苦味が立ちすぎないため、縁の厚いカップが多いのです」。ちなみに、カップの縁はイタリア北部から南部に向かうごとに厚くなり、縁の厚さ約1センチというエスプレッソカップもあるそうです。 本場イタリア流の楽しみ方 イタリア人の生活になくてはならないのがバールと呼ばれるカフェ。その数は、人口当たりで換算すると日本の約4倍だとか。そして、立ち飲みでのエスプレッソ価格は、1杯あたり1〜1.2ユーロほど。缶コーヒーを飲むような気軽な感覚で、イタリア人は1日に5〜6杯程のエスプレッソを楽しむそうです。「都心部で働くイタリア人は朝食代わりにまずはエスプレッソを使ったカプチーノを1杯、11時くらいに休憩しながらもう1杯飲みます。13時頃、ランチ後に1杯。さらに、15時から夕方にかけて1~2杯を飲みますね」。 英語の“express(急行)”という意味のほか、“あなたのための特別の1杯”という語源もあるとされるイタリア語のエスプレッソは、注文を受けてから一杯ごと、短時間で抽出します。そんなエスプレッソをより美味しく飲むコツは、カウンターに置かれたら、すぐに飲み切ること。「イタリア人たちは出来たてが一番美味しいとわかっています。なので、注文から35秒ぐらいで “プレーゴ(どうぞ)”とテーブルに置かれた瞬間、バリスタの手が離れるか離れないかのスピードで砂糖を投入し、さっと飲み干します。早い人だと、1分ぐらいしかバールに滞在しません」。 またバールでは、カプチーノ、マッキャートなどエスプレッソベースのドリンクを楽しむイタリア人の姿も。泡立てた牛乳を少量入れたマッキャートは日中でも頼む人がいる一方、泡立てた牛乳をたっぷりと入れるカプチーノはお腹に溜まるため朝に飲まれることが多いとのこと。そして、このイタリアン・カプチーノ作りにも、しっかりとしたルールがあるそうです。  「定義どおりに抽出したエスプレッソを使うこと、そしてそのエスプレッソを他のカップに移さないことがルールです。そうしないと移す前のカップに美味しい部分が残ってしまい、香りも抜けてしまうのです。150〜180ccのカップに、25ccのエスプレッソを注ぎ、そのなかに55度に温めた泡立て牛乳を注いでいきます。表面が全体的に茶色く、真ん中が白くなるのが理想です」。  厚み15mm程で作られることが多い、カプチーノの泡。その作り方にもコツがあるそうです。「ポイントは、牛乳を一気に泡立てること。牛乳の表面から少し奥に、スチームノズルの先端を入れて、バルブを全開にします。泡ができたら、スチームの勢いで生まれる渦に泡を巻き込み、泡を乳化させながらきめ細かくします。泡が分離しないうちに、カップの底に一直線に注いでいくと、きれいな模様が完成します」。  エスプレッソの美味しい飲み方 中川さんによれば、エスプレッソには「クレマがきれいな茶色になっているか」や「キャラメルやバニラのような焙煎香を感じるか」など、美味しさと判定する10項目以上の評価があるとのこと。「出来たてのエスプレッソは“クレマ”と“コーヒーの液体”が一体化していて、時間が経つほど二層に分離していきます。クレマが沈着化していくと質が悪くなるので、2分ぐらいで飲み切るのが理想ですね」。 「砂糖を入れるかどうかは、お好みで。砂糖を入れないエスプレッソならコーヒーらしさを、砂糖を入れて混ぜ合わせればエスプレッソの真骨頂である“チョコレートテイスト”を味わえます。そして、飲む前にもうひとつ。香りを十分にかいでから飲み、飲んだ後も水などを飲まずに余韻を感じると、さらに楽しめますよ」とエスプレッソ通ならではの楽しみ方を中川さんは教えてくれました。 エスプレッソを自宅で上手に淹れる方法 一般的に、淹れるのが難しいと思われがちなエスプレッソ。でも、実は自宅でも美味しく淹れられると語る中川さん。「マシンと抽出器具、どちらを使うにしても、大事なのは“豆の粗さ”。抽出器具で淹れる場合は、家庭用に挽いた細挽きのコーヒー豆を使います。色合いとしては、チョコレートブラウンのものを。それより深い色になると、焙煎されすぎて苦みが強くなってしまいます。また、数種類の豆を使って、味わいをふくよかにするのもポイントです」。  「また、エスプレッソマシンで淹れる場合は、まずはエスプレッソホルダーに挽きたての粉をセットします(ドーシング)。粉は2杯分で14gが目安です。次に、粉を均一にならすレベリングを行います。粉の密度が均一になっていれば、お湯が通過するときに、美味しさの成分をしっかりと抜き出せるからです。エスプレッソホルダー全体を手で叩いて、ホルダーの内部まで振動させ、全体を均一にさせるのがポイント。熱劣化しないように、素早く2〜3回叩きます。そのあと“タンパー”と呼ばれる器具を使って、表面を水平に押し固めるタンピングをします。  あとは、ホルダーの縁に付いた粉を払って、機械にセットしたら抽出するだけ。熱劣化しないよう、この一連の動きを素早く丁寧に行ってください」。 イタリアでは昔ながらの器具「クックマ(下写真左)」や直火式の「モカ(写真中)」を使って、自宅でエスプレッソを楽しむ方も多いとのこと。  その中で、今回はポピュラーな直火式エスプレッソメーカー「マキネッタ」を使ったエスプレッソの淹れ方も教えてもらいました。「水を入れる下部容器のエアバブルより下に水を入れたら、バスケットに入れた粉を軽く叩いて均一にします。粉を固める必要はありません。バスケットの縁に付いた粉を払い、ガス漏れを防ぐために蓋を固く締めることがポイントですね。3分ぐらい中火にかけて、液体がトロンと出てきたら弱火にしてください。液体が出る勢いが止まらないときは火から離し、抽出終了後に液体をスプーンでかき混ぜてカップに注げば完成です」。  なお、エスプレッソを淹れる際、中川さんがオススメするのがナポリを代表するコーヒーメーカー「KIMBO(キンボ)」のコーヒー豆。50年以上の歴史があるKIMBOは、ナポリの人々が楽しめるコーヒー豆を提供。南イタリアで最も有名なメーカーで、少しビターな味わいが特徴です。また、イタリアでは地域によって好まれるコーヒー豆の味わいが違うため“南イタリアで好まれるロースト感のある香り”や“北イタリアで好まれる華やかな香り”など、KIMBOでは何十種類もの豆を用意しているとのこと。「今回使用したのは、チョコレートやキャラメル、バニラ、ナッツを感じる“プレステージ”という種類。この豆は、多くの方に好まれる万能選手なんですよ」。  短時間で抽出でき、どの時間帯でも気軽に楽しめるエスプレッソ。イタリア人の毎日に欠かせないエスプレッソを、あなたの日常にも取り入れてみませんか?  中川直也さん イタリア国際カフェテイスティング協会(IIAC)認定講師、IIACマスタープロフェッショナルの称号を持つ。イタリアのカフェの業界に長く携わり、イタリア・エスプレッソ普及活動を積極的に行っている。日本バリスタ協会インストラクター。イタリアエスプレッソ協会(INEI)エスプレッソスペシャリスト。モンテ物産株式会社 KIMBOブランド顧問。株式会社AUTENTICO代表。 […]

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おいしいイタリア〜エスプレッソをもっと楽しむ。「イタリアエスプレッソデー」

イタリアのバール文化を紐解き、楽しみ方をお伝えする中川直也さんとの新連載。2回目は、イタリア人が一日に何度も飲むエスプレッソ。本場の味とは? そして正しい飲み方とは? 知っているようで知らない本物のエスプレッソ、その魅力をお伝えします。       エスプレッソの歴史を知ろう! 日本でもすっかりおなじみになったエスプレッソ。カプチーノやカフェモカなども含めれば、日々多くの方が味わっていることでしょう。とはいえ日本でエスプレッソドリンクが広まったきっかけは、チェーン展開されるアメリカ・シアトル系のコーヒーショップ。つまり、イタリア発祥である「本物のエスプレッソ」がみなさんに広く知られるのはまだこれからといえるかもしれません。 エスプレッソが誕生するひとつの転機となった舞台は、1800年代のイタリア。当時ナポレオンが発した大陸封鎖令によりフランス植民地で砂糖やコーヒー豆が極端に不足していました。すでにカフェ文化が台頭していたイタリアでは閉店を余儀なくされる店も現れたとか。そんな中、スタンダールやゲーテも立ち寄ったという1760年創業の「アンティコ・カフェ・グレコ」の3代目オーナーが、カップを小さくし豆の量を減らして価格も下げるという苦肉の策で試練に立ち向かいます。 結局、小さめのカップ(=デミタスカップ)で飲むスタイルは多くの客に受け入れられ、フランス領全土にこの流れが広がっていきました。その後、19世紀前半から中頃にかけては、より抽出効果の高い新しい方法として、サイフォン、フレンチプレス、ナポリ式クックマが登場。20世紀のエスプレッソ抽出へと、道は続いていったのです。 そして1901年、高圧力で濃厚なコーヒーを淹れる方法としてルイジ・ベッツェラが新しいタイプのマシンを開発、その特許を買い取ったデジデリオ・パヴォーニが1906年4月のミラノ万博に出品し、世界で初めて「Caffè Espresso」と表記したのが現在のエスプレッソの直接の起源といわれています。     世界初の「Caffè Espresso」が登場した1906年4月〜のミラノ万博を記念して、国際カフェテイスティング協会(IIAC)イタリア本部では毎年4月16日付近の週末を「イタリアエスプレッソデー」と制定(日本では、1906年のミラノ万博一般公開日にあたる4月16日を毎年「イタリアエスプレッソデー」としています)。     「長い歴史を持つコーヒー文化の中では、エスプレッソは比較的新しい飲み方です。イタリアのエスプレッソは豆の量から抽出の温度、圧力等々、細かな規定がありますが、それが決まったのもほんの20年ほど前。はやりすたりはイタリアにもありますし、おいしいカッフェの1つとして発展してきた中でスタイルとしての変化もあったでしょう。そんな中、イタリアは昔から培われた経験をもとに完成された味わいを守ろうとしています。実際に飲んでみて「これはイタリアンエスプレッソの定義に当てはまるキャラクターだ。適切な焙煎、ブレンド、抽出により、奥行きのある香りや味わい、余韻が感じられる」などと思える理想的な方向性を目指して、マシンも豆も、もちろん淹れ方も吟味されているのです」   そうして規定された「イタリアンエスプレッソの定義」がこちらです。 ・ コーヒー粉の量 7g±0.5g ・ 抽出圧力 9気圧±1気圧 ・ 抽出時間 25秒±5秒 ・ 抽出されたカフェの量 25ml±2.5ml ・ 抽出されたカップ内の温度 67℃±3℃ ・ 5種類以上をブレンドした豆で抽出     バリスタの実力を世界大会でジャッジし、後進を育てる立場でもある中川さん、「日本のバリスタはマジメで一所懸命な反面、仕事の途中で手が止まって、連動した作業ができていないなと感じることがしばしばあります。バリスタにとってカウンターはステージ。常に流れるような動きで作業することが大切です」と語ります。その言葉通り、抽出を待つ間にほかの作業をしたり食器を整えたりして、決して流れを止めません。もちろんお客さんのほうに向くときはいつも笑顔でした。   正しいイタリアンエスプレッソとは 各国でエスプレッソが飲まれるようになった今、原点回帰の必要性、つまり「これが正しいイタリアンエスプレッソだ」という定義を改めて認識する必要がでてきたといえるのかもしれません。「それはお客様だけでなくバリスタのためでもあります」と中川さん。「コーヒーは生活の流れの一部ですが、あくまでも流れであって、特別なワンシーンというわけではないと思います。おいしいコーヒーが当たり前に飲める。日常的な流れの中で、コーヒーを通じて快適な時間が過ごせる。そのためにバリスタにできること、すべきことはいろいろあるはずです」 本物のイタリアンエスプレッソとは何か? 日本人にとってはその基本的な問いにすら、正しく答えることは難しいのが現状です。でも、それは行きつけのバールで毎日何杯もエスプレッソを飲むイタリア人だって、同じなのかもしれません。彼らが知っているのは、エスプレッソの正確な定義ではなく「おいしいエスプレッソとはこういう味だ」という経験。「適切に抽出・作成されたエスプレッソとともに、空間の雰囲気を作るバリスタによって、おいしい経験ができるのだろうと思います」 私たちも、本物のエスプレッソを知り、正しい飲み方を知れば、生活のワンシーンにおいしいエスプレッソがごく普通に存在するようになるのではないでしょうか。4月16日のイタリアエスプレッソデーは、そのための第一歩になるかも。たとえば、イタリアカフェテイスティング協会日本支部ではその日に合わせたイベントなどをご紹介しています。また、イタリアンエスプレッソを味わえる店を集めたこちらのリスト を参考に、身近なお店で本物のエスプレッソを味わってみるのもおすすめです。     ナポリでは、必ず1杯の水と一緒に供されるエスプレッソ。水で口をすっきりさせてから味わうのがナポリ流なのです。 「日本でエスプレッソを淹れると、ブラックで飲もうとする方も少なくないです。でもエスプレッソは砂糖を入れてこそ完成する味。それも、ナポリ人を見習ってたっぷりの砂糖を入れ、30〜40回以上かき混ぜてみてください。混ぜる回数で味や口当たりも変わりますよ。ちなみに北の人はあまり混ぜずにさっぱりと味わうのが好きで、ナポリに代表される南の人たちは何度もかき混ぜてからその後は一息に飲みきりますね。しっかり混ぜることで乳化してキャラメル状になり、上品なチョコレートのような飲み口になります。おいしくないエスプレッソだといくら混ぜても砂糖の甘味だけが飛び抜けてしまうのですが、本物のエスプレッソはコク、酸味、甘味のすべてがバランスよく、複雑に仕上がっているんです」と中川さん。     左は淹れたてのエスプレッソ。1分ほど置いておくと右のように黒く変色してしまいます。「アロマも味もすぐに変わりますから、出されたらすぐに味わうのがエスプレッソを楽しむ極意。ナポリのバールに行くと、スプーンと砂糖を手に持ち、かき混ぜる準備をして今か今かと待ち受けているおじさんもよく見かけますよ」 18世紀にはすでにカフェテリアがあったイタリア。先述したグレコは1760年創業、ヴェネツィアのカフェフローリアンはそれより前の1720年、フィレンツェのジッリは1733年の創業で、しかもその歴史的な店が現存して営業を続けているのです。「カフェテリア創世記のいろいろなお店が今も現役で華やいでいるのがイタリアらしいですよね。ひとつの通りにいくつものバールがあり、そのすべてが個性的で、“これがイタリアのバールだ”なんて一緒くたに評価することはできないほど」と語る中川さん。そうして連綿と続いているカフェ/バール文化の深さには驚嘆するばかりです。そして同時に、本物のエスプレッソのおいしさやイタリアらしい陽気なバールの楽しみ方を日本のみなさんにもぜひもっと知っていただけたらと思います。     […]