文字の発展とイタリアの結びつき
聞けば聞くほど引き込まれるカリグラフィーの世界。さらにお話をうかがうと、カリグラフィーや書体はその歴史や宗教、文化の影響を受けながら歩んでおり、その発展にはイタリアという国が深く関係しているようです。
「知人に石にアルファベット文字を彫っているアーティストがいて、彼女とよく文字について議論を交わすんです。例えばローマンキャピタルというPCのフォントにも使われている書体がありますよね。あれはもともと石に彫るために生まれ、ローマの碑文を描くために用いられていたもののようですね。石を削って描くため、必然的に硬い字体になります。また字を読めない人が多かった時代を経て、人々に何かを伝えるために碑文を作るわけですから、読みやすさも求められます。そうして生まれたのがローマンキャピタルです。このように字体と時代や誕生背景は密接にリンクしているのです」
文字の進化の歴史にイタリアが関わっているのですね
「非常に深く関わっています。神の教えを伝えるために文字が発展してきたという流れがあるように、カリグラフィーは宗教と共に歩んできた背景があります。また、ベネチアは貿易都市としてだけでなく、“本の都”と呼ばれるように活版印刷で栄えた街でもあります。このようにイタリアは文字の発展において重要な役割を担った国なんですね。皆さんが日常で使っておられるフォントのいくつかはイタリアで生まれたものです。ローマンキャピタルの誕生は1世紀頃と言われています。また傾斜させた字体をイタリック体と呼びますが、あれはイタリアのヒューマ二スト、人文主義者たちが自分の考えを羊皮紙に書く時に、紙面に多くの文字を詰め込みやすかったり、早く書きやすいために字を斜めに傾けて描いたと言われています。そこからイタリック体へと発展していったようです」
浅岡さんの作品は、内外の専門誌にも紹介されています。
深いですね。そんなカリグラフィーを通じて浅岡さんが学んだもの、身につけられたものを教えていただけますか。
「私がカリグラフィーを始めてしばらくの間は、自己実現というか綺麗なものを描いて人に見てもらうことや高い評価を期待していた、いま振り返るとそんな気がします。ですが、ある時気づいたのは大切なのは伝えること、文字はコミュニケーションツールだということです。イギリスにユアン・クレイトンというカリグラファーがいるのですが、その方が指摘していたのは、生涯を通じて30数点しか作品を残さなかったオランダのフェルメールはその数少ない作品の中に、手紙を読む女性や書く女性の姿を何度か登場させたことです。ユアン・クレイトン氏によると、それは手紙がもたらす心の大切さを表しているのだと。そして、あなたたちはそれを手で描く技術を持っているのだからそのことを誇りなさいと、そうおっしゃられたのです。その教えからも私は、デジタル全盛の時代でも、やはり人が手で生み出す技術は大切にしたいという思いを強めました。作品を作るとき、綺麗さもそうですが大切なのは相手を思う心。そばにあると幸せだと思ってもらえるようなものを作りたい。そんな意識で作品と向き合っています」
>>>カリグラファーをも唸らせるフィアットロゴ
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