大好評・バリスタ中川直也さんとのバール連載、4回目は自宅で飲める本格派カッフェを伝授していただきます。ドリップコーヒーとはまた違う濃厚な味わいのカッフェ・ナポレターノ。簡単なのにとてもおいしくできるので、思わずほしくなっちゃいます!
バールをこよなく愛し、なじみの店に何度も足を運ぶのがイタリア人の日常ですが、もちろん自宅でもカッフェを楽しみます。各家庭に直火式のマキネッタが必ずあり、しかも「家族2〜3人用」「家族で大量に飲む大人数用」「来客用」など大きさ違いで数個あるのが普通だといいますから、コーヒーがいかに暮らしに溶け込んでいるかがよくわかります。
マキネッタは以前こちらの記事でもご紹介しましたが、今回登場するのは、イタリアの中でもとくにコーヒーに強いこだわりを持つナポリ人が愛用する昔ながらの器具、クックマです。
「イタリア全土で近代的なモカ・マキネッタが使われているのに対し、ナポリ人だけは昔ながらのクックマを愛用しています。一日にバールや家で7〜8杯のコーヒーを飲むナポリ人ですが、その半分以上は自宅で飲むわけですから、クックマの使い方やレシピにもかなりのこだわりがあります。親から伝わる一子相伝的なものでもあるので、誰もが“うちのコーヒーが一番!”と思っていますね」と中川さん。
ナポリ人も納得のクックマは今から約170年前、19世紀前半に発明されたといいます。「サイフォンと同時期に誕生した器具です。20世紀になりイタリアでエスプレッソが発明されるまでの数十年で、フィルターコーヒーよりもより抽出効率が高い方法が発明されてきましたが、ナポリ人は古き良きものを大切にしますから、そういった面でもクックマを愛し、その器具を今でも使っている自分たちに誇りを持っているのだと思います。ナポリの文化を守り続けているんだ、という自負を感じます」
ではさっそく、クックマを使ってナポリ式カッフェを淹れてみましょう。
まずは内側の容器(穴あきのもの)に粉を入れます。今回は3杯用のクックマなので規定量は15〜17g。「18gぐらい使うとシロップのようなとろみ感が出て、ナポリ人が家庭で味わうようなカッフェ・ナポレターノになります。15gだといわゆるレギュラーコーヒーより少し濃い目かな、という感じ。お好みですが、まずはナポリ風を味わってみて」
容器の脇を軽く10回ほど叩いて、粉を均一にならします。指でぎゅっと押し込むと抽出しづらくなり、濃く出すぎたり苦味ばかりが強調されたりするので、軽くならす程度でOK。「もしご自身で豆を挽く場合は、グラインダーの粗さ表示を細かい設定にしてください。確実なのはイタリアの粉パックを使うこと。クックマやモカ・マキネッタに合うようになっていますから。イタリアではそもそもドリップコーヒーを飲みませんから豆を自分で挽く人もいないのです」
均一にならしたら、フタを閉めます。フチの部分に粉がくっついているとフタがきちんと閉まらず、うまく抽出できなくなるので、その部分についた粉は指できれいにはらってから閉めましょう。
注ぎ口がないほうの容器に熱湯を注ぎます。内側にラインがあるのでそれを越えないように。「温度は90〜95℃くらい。熱湯だと苦味や酸味が際立ってしまいますが、少し冷ますと脂質や糖質が溶けつつも、高温による苦味・酸味成分が出すぎないため、バランスのいいイタリア人好みの味に抽出できます。沸かした湯を冷たい容器に注げばちょうど適温になりますね」
先ほどのお湯の中にコーヒー粉を入れた容器を入れ(写真左)、残りの容器(注ぎ口の付いたもの)をすぐにはめます。
持ち手を持ってすっと上下をひっくり返し、その上にフタをのせたら、あとは5分ほど待つだけ。
ところで、最後にのせたフタは単なる飾りなのでしょうか? 「その通り。上容器のお尻の部分を隠してエレガンテに、カップに注ぐときもエレガンテに、という役割です」・・・エレガンテ! なるほどそれもイタリアらしいですね。
抽出が終わったら、濃さが均一になるよう容器の中で軽くまわします。香りを逃がさないよう上容器を付けたままカップに注ぎましょう。
おいしいカッフェ・ナポレターノのできあがり。簡単なのにとてもおいしいです! このコーヒー2杯分に、65℃程度に温めたホットミルクを加えれば、コクと優しさのあるカッフェ・ラッテも簡単に作れます。バニラやチョコのアイスと合わせれば、食後や夏のデザートにぴったりのアッフォガートに。
「夏にぴったりといえば・・・」と、中川さんが手早く作ってくださったもう一品は、淹れたてのコーヒーで作るカッフェ コン ギアッチ。「コーヒー withアイス、つまりアイスコーヒーです(笑)。氷さえあればいいので、僕も夏場はよく作ります。甘味も加えずにこのまま味わってみてください」
ワイングラスに氷を6〜7分目まで入れておき、できたてのカッフェ・ナポレターノを注ぐだけ。「できたてを急冷させるので甘味も酸もきれいな状態のまま。香り、味ともにぎゅっと閉じこもるんです。じんわり冷ますとおいしくないんですよね」
注いだら、グラスをまわすかマドラーでステアすれば完成。
「たとえばコンビニで買うアイスコーヒーは、苦味ばかりが立って甘味が少ない。コーヒーの旨味である糖質や油分がちゃんと溶け出していないから薄っぺらい味にしかならないんです。カッフェ・ナポレターノで作ったら、ひと味違うでしょう?」ひと味どころか・・・これ、本当においしいです! ワイングラスで飲むことで香りがさらに際立つし、夏のひとときを優雅に演出してくれる効果も。
自宅で簡単に作れるカッフェ・ナポレターノ。この道具があるのとないのとでは、暮らしの質が変わってしまうはず・・・そう思えてしまうコーヒー器具でした。次回は、カッフェ・ナポレターノで作るカクテルレシピをご紹介。クックマがますますほしくなっちゃうこと請け合いです。どうぞお楽しみに!
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フィアット松濤 ショールーム内のFIAT CAFFÉでも、クックマで淹れた「カフェナポレターノ」が飲めます。お気軽にどうぞ。
中川直也さん
イタリア国際カフェテイスティング協会(IIAC)認定講師、IIACマスタープロフェッショナルの称号を持つ。イタリアのカフェの業界に長く携わり、イタリア・エスプレッソ普及活動を積極的に行っている。日本バリスタ協会インストラクター。イタリアエスプレッソ協会(INEI)エスプレッソスペシャリスト。モンテ物産株式会社 KIMBOブランド顧問。株式会社AUTENTICO代表。
撮影 SHIge KIDOUE
取材・文 山根かおり
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