fiat magazine ciao!

#アウトドア

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LIFESTYLE

CIAO! LIFE〜シンプル&コンパクトに楽しむアウトドア

気楽にできるの? アウトドア 街の本屋やTV、ブログなどを賑わす“アウトドア”なモノやコトたち。都会を走るクルマまでがSUVやヘビーデューティー感溢れる大型四駆も増加の一途です。しかし、実際に「アウトドアをエンジョイしよう!」となると、やってみたいのは山々だけど、準備がね…。 道具がね…。 というようにまだまだ敷居が高いと感じる方も多いのもまた事実。 たしかに、大掛かりなキャンプや凝ったBBQをしようと思えば、それなりの装備や準備が必要になりますし、そうなると、事前のきちんとした計画も必要になりますよね。 本格キャンプやBBQはもちろんとっても楽しいのですが、その楽しさの原点とは、思い立ったが吉日!ではありませんが、スッと腰を上げて行動に移せるかどうかが重要なポイントではないでしょうか?     興奮と喜びは“外にある” そんなわけで、ちょっと手軽なアウトドアの楽しみ方を求めて、日本のキャンプシーンの第一人者、石角直樹(いしかど なおき)さんを訪ねました。彼は、関東で人気のファッショナブルタウン、二子玉川にあるビンテージランタンとオイルランプの専門店「viblant」(ビブラント)のオーナーです。その土地柄、若いカップルや最近では女性のお客さんも多いとか。取材当日も、かわいいアウトドアグッズやランプを求める姿が絶えませんでした。     石角さんは、かつては米国のアウトドアグッズの名門コールマン社の日本法人で、多くの直営店のプロデュースを手がけるなど、その筋では有名なアウトドアのひと。 ちなみに石角さんの結婚式はもちろん“アウトドア”だったそうなのですが、会場となった御殿場のキャンプ場には、彼を慕う全国のキャンパーたち200人余が集結し、屋外にバージンロードから祭壇まである本格的な結婚式をつくりあげたという伝説までお持ちです。   「キャンプって、プロのライセンスがないじゃないですか?プロとアマの線引きがないですよね。この緩さがたまらない…。もちろん、あの空気感とか、朝起きた時の爽やかさとかね。普段見られない物も見ることができます。たとえば、星空は街でも見られるけど、天の川を肉眼で楽しめるのはキャンプ場まで足を運ばなければならない。街中で流れ星をずーっと目で追うなんてことはなかなか難しい。それ以外にも、夜の動物との出会いも楽しくて、テントサイトのゴミ箱をあさりにくるタヌキとかね(笑)。鹿はすごいんです。近づいてくると、テントにでっかい影が映ってびっくり(笑)。とにかく、日常にはない何かに出会える楽しみがいっぱいあるんです。それがキャンプの醍醐味かな…。」   「思い立ったらすぐにやる」そんなクルマでのアウトドア・ライフ そんなキャンプの様々な楽しみを語る石角さんが、気軽に楽しめるドライブ&アウトドアをいくつか提案してくれました。     「たとえば、シングルバーナーという手に乗りそうな小さなコンロがあります。これとパーコレーターさえあれば、どこでも美味しいコーヒーを楽しめるんですよ。」     ホワイトガソリンのシングルバーナーは、非常にコンパクトで、持ち運びもカンタン。それだけではなく、気温の低下や風にも影響を受けません。なにより、本格感があるにも関わらず、実はかなりお手軽だったりします。 「さらに、折り畳みのチェアとコンパクトなテーブルがあれば、風景のよいところでのんびりと休みながらの贅沢なコーヒーブレークが楽しめます。ちょっとした行楽や道中の合間の道草でも楽しめたりするのでオススメです。 ちなみに車内で楽しむのもいいのですが、折りたたみのチェアなんてあるといいですよね。また、コットというキャンプ用の折り畳みベッドがあるんですが、ものによってはベンチとしても使えたりするものもあるし、ちょっとした昼寝にも使えたりと便利なんですよ。」 こういったグッズは、いずれも軽量でコンパクトなので車内でもまったく場所をとりませんからクルマに積みっぱなしという手もあります。     キャンプ場じゃなくても、アウトドアは楽しめる さて、アウトドアを楽しむためのツールは本当にたくさんの種類があります。そんなキャンプ用品のどんなところに魅力があるのでしょうか。 「やはり、コンパクトさと丈夫さですよね、なんといっても。あとはシンプルさ。シンプルだから壊れにくいし、修理すれば長く使えます。コールマンのランタンなんて100年前のものが現在でも普通に使えるわけなんですが、それは何より構造がシンプルなことが大きいと思うんです。これが例えばオイルランプだと構成部品が10点くらいしかない。コールマンのランタンだってせいぜい50点あるかないか。だから、誰でもカンタンにメンテが可能で長く使い続けられる。自分と同じ歳の道具で遊べるって、あんまりないでしょ…?」 そんなコダワリをみせる石角さんは、オリジナルの商品を開発、販売もしている。     「たとえば素材。うちのバッグ関係はコットン、つまり厚い帆布なんですが、いろんな道具を運ぶバッグとして使うには、当然丈夫でないといけないし、火に弱くてもいけない。だから帆布を使います。でも帆布のバッグは普通のミシンでは縫えませんし、縫製もしっかりしなければなりません。こうした要求すべてが連動して結果、機能と風合い、つまりモノとしての存在感がどんどんよくなっていくんですよ。こういうコダワリが出てくると、現場で使う道具の素材もできるだけ揃えたくなるんですよね〜。イスとテーブルのフレーム素材が違ったりしたら、やっぱりちょっと気になって仕方ない(笑)。」     石角さんのテントのセッティングはその美しさに定評があるのですが、きっとこうしたひとつひとつの道具の素材に対する気配りや選定、そして配置が成しうるものなのでしょう。 こうしたコダワリは、「心地よい空間を作るためには何が必要か?」ということを追い求めてきたからこそ生まれた結果なのでしょう。彼のお店が最近の若い子たちを惹きつけているのも、シンプルで長く愛せて飽きない。だからより愛着が増す…といった道具たちはもちろん、そのスタイルにどこか本能的な価値を見出しているのかもしれませんね。     プラスアルファにみる「楽しさ」 さて、この日はちょっとした荷物も飲み込んでくれ、しっかりと悪路も都会も走れる「気軽な四駆」フィアット500Xでお邪魔したのですが、このクルマを初めて見た石角さんが、隅々までチェックして大きく頷きました。     「本格的なクロカン四駆も好きなんですけど、やっぱりパッと乗れる、パッと出かける気軽さというのは本当に大事だと思うから、こういうタイプのSUVを見るとワクワクしちゃうんです。たとえば、大晦日に“そうだ、初日の出を見に行こう!”って寝袋とチェアを積んで、元旦の朝3時に出かけてクルマの横で朝日を眺める…。そんな簡単なことでもいいと思うし、なにより楽しそうじゃないですか? このくらいの広さがあれば遊びの道具もそれなりに詰めちゃうわけだし、それでいうと毎月テーマを決めて出かけちゃうと思うんですよ。2月は雪山でスノーボード、3月なら野草摘み、4月はベタだけど桜、6月ならホタルを見に行こう!とか。だから、こういうクルマを見ると、年中いつでもアウトドアで遊べるというイメージが湧いちゃうんですよね。」     チンクエチェントの系譜でありながら、新しい装備や駆動形式といったプラスアルファを持つ500X。新しいものとレトロフィーチャーの組み合わせが織りなす独特の雰囲気は、写真のようなレトロなウォータージャグとも不思議なマッチングをみせてくれます。     是非、次回は小さなクルマ、楽しいクルマで行く気軽だけど本格的な「アウトドア〜実践編」。つまり、ちょっとしたプラスアルファがもたらしてくれる「楽しさ」をご紹介頂きます。お楽しみに!     ビンテージランプ&アウトドアギア viblant 東京都世田谷区玉川2−15−13ヴァレンナ二子玉川2-A […]

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CULTURE

芝浦に160年。老舗寿司店の主人に聞く江戸庶民の気質と遊び

1800年代には人口が百万に達し(※)、世界最大級の都市といわれた江戸。 そこでは300年余の間に生活のあらゆる部分が独自の発展を遂げ、明治、大正、昭和を経て現在に受け継がれたものも少なくありません。今回は、創業160年を数える老舗寿司店のご主人に、今も息づく江戸の庶民文化について伺います。 ※当時行なわれた町人対象の人口調査に、記録のない武家や公家などの推計を加えたもの   「小粋」を尊ぶ江戸の暮らし 「小粋」、辞書を引くと、なんとなく気が利いていたり、しゃれていることを指す言葉だと記されています。小粋の小は一歩下がった謙虚な表現で、これみよがしではなく、さりげなく漂う洗練を小粋と呼んできたわけですね。 こういった感性を大切にしたのが江戸の人々で、それは明治維新を経て東京となった今も息づいています。東京湾に面し、運河が走る港区の芝浦界隈もそのひとつ。多摩川など多くの川が流れ込む豊饒な海は、良質な魚介を産し、それは江戸前の由来にもなりました。 この地に徳川幕府の時代、安政から160年続く寿司店があります。   現当主で五代目という「おかめ寿司」は、江戸前の伝統を守る老舗。店主でありながら、同じく江戸庶民に愛された「江戸前の小物釣り」や「落語」も愛する長谷文彦さんは、小粋な暮らしを平成の世に実践する現役の江戸っ子です。今回は、今も残る江戸の嗜みや愉しみを伺いました。     切って、握る…シンプルだからこその奥深さ おかめ寿司の創業は安政2年(1856年)、徳川幕府が終焉に向かう時代でした。 「江戸時代、ここには漁港と河岸がありましてね。この先の東禅寺にイギリスの公使館ができて、ウチの初代が魚介を納めるようになりました。その頃、巷では“イギリス人が娘の生き血を呑んでる”なんてウワサが広がってたんです。おそらく、それはワインだったんでしょうねぇ(笑)。そんなわけで、飯炊きに若い娘を出入りさせるなんておっかない! というわけで27歳(当時じゃこれで大年増といわれたそうです)だった初代の女将さんが選ばれて、そこで初代と出会い夫婦になったんです。で、その後独立して寿司屋を始めたというあんばいです。」   明治維新前夜、激動の時代に歩みを始めたおかめ寿司ですが、寿司はシンプルだからこそ奥が深いと言います。 「塩や酢でしめたりしますが、結局は切って、握るだけの仕事なんです。でも、切り方によって、同じ魚でもさっぱり感じたり、そうでなかったりするんです。包丁で魚のよさを引き出せるんですよ」 昨今、ウニやイクラの軍艦巻きなど、かつては江戸前寿司になかったものも出すようになりましたが、160年間変わることのない伝統もあるとか…。   「アジ、サバ、小肌の締め方ですね。塩引きだけで旨みを出すっていうのもこだわりがあって。夏場のスズキだってちょっとクセがありますが、塩をやって、そのあとで洗うとクセが抑えられて、旨みが出てきます。寿司は男、それも職人も多かった江戸の街で、気が短くて味にうるさい連中が育てた文化ですよね。だから昔の寿司は大きかったんです。祖父の話では、今の三倍くらい。仕事帰りとかの食べ物ですからそうなったのだと思います」 時代と共に、客層もその好みも変化します。今ではトリュフを使った創作寿司を出すような店もあるほど。伝統は革新の積み重ねと言いますが、寿司の大きさだけでなく、おかめ鮨も、世の中の動きにアンテナを張って、新たな素材や味にも可能性を探ります。   「うちもカリフォルニアロールを出せなんて言われて最初は面食らいましたが、最近では、カウンター8席全部外国の方なんてこともありますからね。やっぱりそこは柔軟に対応するということも必要なのかなと思いましたよ。でないと絶滅した恐竜みたいになっちゃう…。」と、長谷さん。老舗ののれんを守る努力も忘れません。     江戸の人々が愛した小物釣りの深淵 運河や水路が縦横に走る江戸の街は「東洋のベニス」と讃えられたと言います。そこではフナやタナゴ、ハゼなどの釣りが楽しまれ、武士や町人の憩いの場となっていました。浮世絵にも釣りを楽しむ人々が多く描かれ、女性の釣り姿も目につきます。長谷さんが長年愛する江戸前の小物釣りについて伺ってみました。   「大名が楽しんだというタナゴ釣りなど小物釣り文化は現代にも受け継がれてきました。釣り糸は生娘の黒髪に限る…。なんて話もあって、私も女房の髪で真似したもんですよ(笑)。旦那衆も“ちょっと組合の寄り合いに…”とか言って、女将さんに内緒で釣りに行ってたんですね。そんな時、タナゴとかの小継(こつぎ)の竿は都合がいいんです。胸の内ポケットに隠せるから、仕事の合間にちょいと1時間って…。」     江戸前の釣道具は、指物(さしもの・板を指しあわえて作られた家具や器具の総称)や漆の高い技術がふんだんに盛り込まれつつも、これ見よがしな華美に走らない江戸の感性が漂っています。コンパクトでありながら、求められる機能は満たされていました。       「享保の倹約令(第8代将軍徳川吉宗による幕政改革)の影響かもしれませんが、表地より裏地に凝るなんてのが粋とされていました。でも、やろうと思えば絢爛豪華にもできたと思うんです。そうはせずに、しかし凝る所には凝る…。釣具で言えば1本の篠竹を切ったっていいのに、節が詰まってる竹を捜したり、それぞれの部分に合った竹を吟味して継竿にしたのは、他人より粋で優れた道具がほしい釣り師と、それに応えようとする職人達のいい関係があったからでしょうね。釣り師はパトロン的な存在で、若い職人を育てようとする……呉服屋の旦那衆とか日銭で金回りのいい釣り師は、見込みのある若い船頭がいると、何人かで金を出し合って船を1艘造ってやるんです。でも、客としてきちんと金を払って乗り、恩着せがましいことは一切言わない。そんな粋なことをしてたんです。」     見栄と我慢と意地っ張り…人情あふれる落語の愉しみ 落語も江戸っ子の楽しみでした。明治大学の落語研究会であの三宅裕司さんの後輩である長谷さんにとって、この小粋な芸能も幼い頃から生活の一部だったといいます。   「先々代が、和服着て小唄、端唄、常磐津、踊りを嗜み、歌舞伎の大向こうでした。先代の勘三郎さんが麻雀仲間でよく来てましたよ。出前の帰りに、芝居をひと幕見てくるような人でした。ウチは、仕事が休みの忌み日ってのがあって、先々代と墓参りに行くんですけど、帰りに上野でとんかつ食って、鈴本演芸場寄って落語聞いたり、浅草公会堂行ったり…。そんな風に落語と接していたんです。で、寄席の落語の真似を学校でやるとウケるわけですよ。こりゃ面白いなぁ…って。それで大学で落研(落語研究会)に入ったんです。」   落語は庶民の娯楽であると同時に生活の鏡でもありました。 「江戸の落語に出てくる気風のよさとか、見栄と我慢と意地っ張り、やせ我慢の大人って、わたしの子供の頃は普通にいたんです。でも、昭和50年頃を境に減っていきましたね。職人仕事の工場が郊外に移転したからなんですね。」         切る、締める、握る…シンプルだからこそ、ごまかしがきかず、技術とセンスがそのまま現れる寿司の世界。小さな魚を釣る楽しみを、コンパクトな道具や釣法に昇華させていった小物釣り。そして、粋を尊び、細やかさを身上とする市民の息づかいを描き出した落語。   文化を守るという意味ではイタリアも頑固である。こと、楽しいことに対する徹底的な姿勢は、こうした江戸っ子の気質にも近いものがある。 「フィアット500で、春の小物釣りとか行ってみたいですね。小さな道具を積んで、ウインドウからの景色が違って見えると思うんだよねぇ。水郷とかにタナゴとかフナとか、お弁当作ってさらっと遊びに行ったらいいだろうなぁ」。そういって笑った長谷さん…。 寿司職人が作るお弁当。それを彩るステキな小物たち。小粒だけど、あっけらかんとした開放感が十八番の500。是非ともそんな組み合わせで、ニッポンの桜を愛でてみたいものです。 […]

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LIFESTYLE

世界の海を股にかけた男〜マリンイラストレーター高橋唯美

周囲を大海原に囲まれた海洋国家日本…。しかし、ヨットやクルーザーなどを楽しむマリンレジャーの世界では、欧米諸国がリードしています。船舶の設え、マリーナなどの設備、そこでの時間を楽しむためのソフトウエアまで、まだまだ学ぶべき点があるようです。 イラストレーターであり、ジャーナリストとしても活躍する高橋唯美(たかはし ただみ)さんは、ヨット雑誌の最高峰「Sail」から招かれ、活動の場をアメリカのマサチューセッツ州に移したほどの経歴の持ち主。 どこか温かで、スマート…しかしスケールモデルのような緻密さを備えたその作風は、マリンレジャーで世界的な評価を受け、「Tadamiの愛称で各国のヨット、ボート関係者から愛されてきました。40年にも及ぶキャリア、200近いメーカーの訪問と350を超えるヨットやボートへの試乗など、まさに日本の第一人者と呼べる方です。     文字通り世界の海を股にかけてきたTadamiさんは、現在も江戸の香りが残る東京は八丁堀の運河のほとりで忙しい毎日を送られていますが、自宅兼事務所ビルは、裏口からそのまま愛艇に乗り込むことができるという素晴らしいロケーションで、クルージングや釣りを生活の一部として楽しむ、さすがのボートライフを送っていらっしゃいます。       たどり着いた、小さなボートでの楽しみ 小型のディンギーから100ft超の豪華クルーザーまで、長年世界の船に乗り、描いてきたTadamiさんがたどりついた愛艇は意外にも小型ボート。ボストンホエラーの17ftというモデルが現在の東京における相棒です。 「大きな船は船体だけではなくて維持費、ランニングコストいろいろかかるじゃないですか。また、80ftとかになってしまうと、一人じゃ無理。クルーが必要になるわけです。そうなると、人間関係とかマネージメントとかが面倒くさくなる。よく、大型船のオーナーさんがクルーを連れて飯に行ったりするのを見るんですが、結構気を遣ってるんですよね。大変だなあって思います。まぁ、私の人間の小ささですかね(笑)。遊びくらい好き勝手にやりたいから、一人で自由に取り回せるのになっちゃうんです。 そういうTadamiさん、沖縄の西表島と広島にもやはり、同サイズのコンパクトなボートを一艇ずつお持ちだそうで…。 「よく、小さいの3つ分で大きいのをひとつ持ったほうがいいじゃない?と言われます。でも、そのマリーナ1か所を中心とした遊び方しかできなくなっちゃうでしょ。今のようにしておくと、東京湾、瀬戸内海、沖縄…と、まったく異なった世界が楽しめるじゃないですか。 楽しい時間、心豊かな暮らしをエンジョイするという点で、彼はすでに日本人離れしているのかもしれません。     コンパクトさに込められたプライドとは… Tadamiさんは、フィアット500のファン。そのコンパクトさにこそ魅力があると言います。 「仕事で国産のボートに乗るようになってからですね。フィアット500が一層好きになったのは…。ボートに限った話ではないと思うんですが、国産のボートって小さいなりの作りしかしないんですよ。それにとても腹が立っていたんです。だって、小さいってことですでにハンデがあるわけだから、それを補う何かを与えてやってほしいんです。ちょっとリッチな感じのインテリアでもいいし、居心地のよい雰囲気でもいい…。素材やちょっとした造りとか、小さな物にこそ魂を込めてほしいと…。その点、フィアット500って、小さいという可愛いさと、シンプルだけど、みすぼらしさを微塵も感じさせない魅力を持っているじゃないですか。コンパクトであってもプライドを持って乗れるように仕上げてあるってすごいと思います。まさにあのサイズを武器にしてるとさえ思えますよね。 そんなTadamiさんが世界的なマリンイラストレーターになるきっかけは、クルマへの憧れからはじまっています。 「自動車のデザイナーになりたくて育英高専へ行ったんですね。2年後輩に由良卓也(日本を代表するレーシングカーデザイナー)君がいます。当時の製図の先生がベルギー人のすごく厳格な人で、図面に日付とか縮尺とか名前とかサインするときでさえ、必ず60度の角度で書くように指示されるんです。定規当てるよりはやいから、僕はフリーハンドでやっちゃうんだけど、そこに全部赤が入る(笑)。こりゃ向いてないな、やっぱりイラストが好きだなと確信しました。     やがてその作風は「平凡パンチ」の編集者の目に留まり、自動車のカスタムに関する連載や鈴鹿1000㎞レースのイラストルポなどを手掛け、ついにイラストレーターとしてデビューを飾ります。そして2年後、現在につながるヨット・ボート専門誌での活躍となっていきます。     セクシーさとモノづくり 自動車同様、ボートの世界でも大人気のMade in Italy。Tadamiさんは彼らのモノづくりをこう語る。 「なんともいえないセクシーさですかね。船はもちろんのこと、いろんなものやちょっとしたことにそれを強く感じますね。若いセクシーさもあれば、成熟した魅力もある。無からあそこまでセクシーなものを作り出す能力ってすごいですよ。船の世界でいうと、デッキ(甲板)のニスの塗り方ひとつにすごいコダワリがあったりするんです。 セクシーという表現は、ややもすると日本人にとっては刺激が強すぎるかもしれないが、まったくどう表現したらいいものか、日本語には適切な言葉が見当たらない…。 強いて言い換えるとするならば、なんともウキウキするようなというか、「楽しい」のちょっと先にあるオトナな感覚とでもいおうか…。もっとカワイイとステキとダンディといろんなものが混ざったものだったりする。     デッキのニスではないけれど、現行500にもいくつものセクシーさが息づいている。 「ボディの四隅やフェンダーのカーブなどはさすがだなと思わせるものだし、車内でいえばたとえばハザードスイッチなんかもそう。日本車やドイツ車のそれは文字通り緊急時のボタンでしかないんだけど、このわざわざクリア厚盛りにされたハザードスイッチは、完全に赤のアクセントとしてダッシュパネルの主役になっている。 しかも、ボディと同色のこのパネルの凹みに加担している微妙なRとか…。単に凹ませたんじゃなく、左右から緩やかになっている部分などまさにセクシーとしか言う他ない。この妖しさがイタリアンというか500の好きなところですね。」 こうした小さなオシャレの積み重ねが、Tadamiさんのいう「セクシーさに繋がっていき、シンプルなオトナの世界と可愛げのある若々しい世界の混ざり合う独特の空間を作り出しているのかもしれない。     「やっぱり、小さいけど、カワイイけど、でもやっぱりオトナなんだよなあ。500って…。 楽しい時間を知り尽くした達人がふとつぶやくその表情には、彼がはじめて乗り物の「顔」を意識させたという500同様、やわらかな笑顔が満ちあふれていた。 […]

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CULTURE

おでかけFIAT〜小さな高級魚ワカサギにみる「小粋」という価値

時代が求める小さな美味 SNSの発展とともに、かねてからのグルメブームはさらに加速しました。とりわけ高級肉などが好例ですが、同じくらいの人気を集めるのが「お魚さん」。大間のマグロ、氷見のブリ、日本海のノドグロなどなど、その多くは脂の乗りを身上とする、派手な顔ぶれがほとんど。確かに美味い。間違いなく幸せなおいしさがそこにはあります。 ところが、そうした重量級のスターたちに負けず劣らずの支持を受けているのが、たとえば琵琶湖のホンモロコ。長く小さな高級魚として食通の間で珍重されてきたのですが、最近では若い女性の間でも流行の古都の旅で、虜になる人が続出しているとか…。その需要を受けて各地で養殖も始まったといいますから、ちょっとしたブームの予感すら感じられます。 ギラギラとした豪華さや派手さばかりが上質ではない! という流れが世界的に巻き起こる現在、自然に人々は真の豊かさやモノの本質に、以前よりも気をとめるようになったのかもしれません。 魚に限らず、こうした個性的でキラリと光るキャラクターをもつ食材や料理に対する注目度は、これからさらに上がるでしょうし、むしろちょっと小粋でオシャレにすら映るのかもしれません。 さて、今回は、同じように人差し指ほどの姿でありながら、徳川家の将軍を虜にし、天皇に捧げられた魚…。「ワカサギのお話です。 えっ?ワカサギが? そう思う方も多いでしょう。スーパーでも魚屋でもごく普通に売られていて、甘露煮や南蛮漬けなど惣菜店でもおなじみのアノ魚です。 ワカサギは「公魚」と書き、第11代将軍徳川家斉の時代、霞ヶ浦に近かった麻生藩はワカサギを年貢として献上することが許されていました。つまり、公儀御用の魚=「公魚」というわけなのです。“小さな高級魚”として江戸幕府の将軍たちはこの美味に目を細めていたのです。     今も箱根に残る「献上公魚」 今や世界的な観光地として人気も高く、年間2000万を超える人々が訪れる箱根。その地の中心にある芦ノ湖は、蒼い湖面に朱の鳥居が映え、霊峰富士山を臨む美しい湖ですが、ここで育ったワカサギは、刺網漁が解禁となる毎年10月1日に、天皇陛下、皇太子、秋篠宮、常陸宮の各宮家へ献上されているのをご存知でしょうか? 皇室の避暑地として「函根離宮が置かれていたこともあって、昭和天皇はことのほか箱根を愛していました。そして、昭和24年の植樹行事をきっかけに献上が始まったという経緯があります。     採捕されたワカサギは同湖の漁業協同組合により、湖畔にある九頭龍神社へ奉納され、午前7時から公魚献上奉告祭を迎え、やがて皇居内の宮中三殿と呼ばれる三つの神殿へ向けて旅立っていきます。     そんなワカサギは、一方で実は誰もが簡単に気軽に楽しめる釣りのターゲットでもあります。その大きさからは想像がつきにくいのですが、実はサケの親戚なので好奇心が非常に強く、闘争心も旺盛。可憐な姿に似あわず、群れの中で激しく餌を奪いあったり、光るものや動くものに激しく反応するので、芦ノ湖では餌をつけずにハリだけでも釣る事が可能。ふらりと手ぶらで訪れ、道具をレンタルし簡単に楽しめる手軽さも芦ノ湖のワカサギの魅力です。   小さな身体に潜む奥深い味わい 甘露煮や佃煮も有名ですが、フライや天ぷら、素焼きといったシンプルな調理法やアレンジでこそワカサギの素材力が浮き上がってきます。     炭火でじっくりと炙っていくと、さらりとした上品な味の脂がにじみ、やがて皮の焼ける甘い香りが立ちのぼり、噛みしめるときめ細やかな身がフワっとほぐれていきます。あっさりとしているのに、じんわりと広がっていく旨み…。その他ピザに載せたりなどしてもとても美味しいワカサギ。ドライブのついでや日帰りキャンプに是非ともお試しいただくことをオススメします。     肩肘を張らないという特技 そんなワカサギにまつわる話には、日本人とイタリア人の間にある共通点を見出すことができます。美や歴史、何より食を重んじるところはもちろんなのですが、派手さにとらわれず、ちょっとしたコトやモノにも価値を見出す「小粋」という感覚を持ち合わせることがその最たるものかもしれません。     北に上質なポルチーニがあると聞けば北へ、最高のピスタチオがあると聞けば南へと躊躇なく数百キロも走るイタリア人は、本当の上質が意味するものが何なのかを身体で知っています。 四季折々、各地方の田舎町の名産を嗜むのは最高の贅沢として広く一般的ですが、戦後のイタリア人にそれを体感させたのは、他でもないFIATの小型車たちなのです。     街からアルプス、城塞都市や農道など、あらゆる景色に自然に溶け込むデザインを持ちあわせる小さな相棒たち。多彩な景色や文化、なにより豊富な食文化を持つ日本にも自然にフィットするはずです。 さあ、あなたもFIATで日本を味わい尽くしてみませんか?   参考文献 九頭竜神社社報 […]

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